| 健康と医学の話 |
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体に毛を生えさせるスイッチを入れる物質を、米エール大学の研究チームがマウスを使った実験で発見した。
人間の毛髪にも同じ仕組みがあると考えられ、脱毛症治療などへの応用が期待される。
動物の毛は、毛の元になる「幹細胞」が分裂や変化を繰り返すことで生える。だが、幹細胞が何をきっかけに変化を始めるのかは、わかっていなかった。
研究チームは、毛根の周りにある「脂肪前駆細胞」に注目。その数を調べたところ、毛が成長する直前に増えていた。脂肪前駆細胞ができないようにマウスの遺伝子を操作すると、毛は成長しなかった。
さらに脂肪前駆細胞の働きを調べた結果、この細胞が「PDGF」というたんぱく質を作り、PDGFが毛の幹細胞に作用して毛が生え始めることがわかった。
血液をつくり出す細胞に異常が起きる難治性血液がんの一種「骨髄異形成症候群」の原因となる遺伝子を、東京大医学部付属病院の小川誠司特任准教授らの国際共同研究チームが発見した。現在は根本的な治療法は骨髄移植のみだが、遺伝子の発見が治療薬開発につながる可能性があるという。論文は11日付の英科学誌ネイチャー電子版に掲載された。
研究チームは患者29人の遺伝情報を詳細に解析。細胞が遺伝情報をコピーする際、必要な部分だけを選び出す「スプライシング」に関わる複数の遺伝子に、高い確率で変異が生じていることが分かった。
さらに患者316人と、他の血液がん患者266人を比較。これらの遺伝子に変異がある割合は、骨髄異形成症候群で最大85%だったのに対し、他は数%以下だった。変異させた遺伝子をマウスの細胞に導入し、血液をつくる能力が低下することも確認した。
九州大生体防御医学研究所の鈴木聡教授(ゲノム腫瘍学)らの研究グループが、がんの進行を左右するメカニズムに「PICT1」というたんぱく質が関わっていることを突き止めた。
生存率を高める新薬の開発につながる可能性があり、1日、米科学誌電子版に発表する。
研究では、細胞核の核小体の中に、PICT1が存在することを発見。正常な細胞の場合、PICT1は「リボゾームたんぱく質」と結合しているが、PICT1を消失させると、リボゾームたんぱく質が核小体から出て、がん細胞の増殖を抑制する「p53」と結合し、p53の働きを活性化させることがわかった。
また、がん患者のPICT1と生存率の関係も調査。食道がんでは、PICT1が少ない患者の5年後の生存率が1・7倍になり、大腸がんでも1・3倍になることが確認された。
歩くのが速い高齢者ほど長生きする傾向があるという研究結果を、米ピッツバーグ大学の医師らがまとめ、米医師会雑誌で発表した。
研究チームは、65歳以上の男女計3万4485人の歩行速度を記録した過去のデータを解析。普通に歩いた時の速さは、平均で秒速0・92メートル(時速約3・3キロ・メートル)だったが、どの年齢でも同1メートル以上で歩く人は比較的長く生き、歩くのが速い人ほど余命が長かった。一方、同0・6メートル以下の人は早く亡くなることが多かった。
速く歩くには強い心肺機能や筋力が必要で、歩行速度が健康度の目安になったと考えられる。現在、高齢者の余命を予測する良い指標はないため、研究チームは「歩行速度に注目すれば、高齢者の健康管理などに役立つ」と話している。
疲労からの回復を促し、疲れに応じて全身の細胞で働くタンパク質を東京慈恵会医科大学などのグループが特定しました。疲れを測定する指標になると期待されています。
東京慈恵会医科大学と大阪市立大学の共同研究グループは、疲労からの回復を促す物質を探すため、さまざまなタンパク質を腎臓の細胞に入れて、反応を確かめる実験を繰り返しました。すると、FRというタンパク質を入れたときに、細胞の中で疲れの原因とされる物質が減ることが分かりました。さらに、細胞でFRを増やすアミノ酸を見つけ、20代から50代の男女17人に協力を求めて、このアミノ酸を摂取するかどうかで、自転車こぎを4時間続けたあとの疲労の回復具合に違いが生じるか調べました。その結果、アミノ酸を摂取した場合は、全員の疲労の回復が早まったことから、研究グループでは、FRは疲労からの回復を促すタンパク質だと結論づけています。このタンパク質は、疲れに応じて全身の細胞で働くということで、研究グループの近藤一博教授は「疲労の度合いを客観的に測定する指標になると期待される。簡単な疲労測定法の開発につなげたい」と話しています。
コレステロール値は高い方が長生きで良いとする指針を、医師や栄養学者らで作る日本脂質栄養学会がまとめた。
3日から愛知県で開かれる同学会で発表する。高コレステロールは心臓病や脳卒中の危険要因であり下げるべきだとする現在の医療は「不適切」としており、論議を呼びそうだ。
現在の基準は、LDL(悪玉コレステロール)が140(ミリ・グラム/デシ・リットル)以上かHDL(善玉コレステロール)が40(同)未満、もしくは中性脂肪が150(同)以上だと高脂血症と診断される。
日本動脈硬化学会が作成した。メタボ健診の基準もこれを基にしている。
日本脂質栄養学会が今回まとめた「長寿のためのコレステロールガイドライン」は、「現在の基準値は基になる具体的なデータが示されていない」と主張。
コレステロールが高いほど死亡率が低かったとの大規模研究や、コレステロールを下げる薬を服用しても心臓病の予防効果は見られないとする海外の近年の研究から、指針をまとめた。
前立腺がんを発症しやすくなる遺伝子の特徴を、理化学研究所と東京大などの研究チームが突き止め、1日付の米科学誌ネイチャー・ジェネティクス(電子版)に発表した。事前に遺伝子を調べることで、早期発見に役立つ可能性がある。
遺伝子の種類は、塩基と呼ばれる4種類の化学物質の並び方で決まる。研究チームは、並び方が1カ所だけ本来と異なる「SNP(一塩基多型)」と呼ばれる遺伝子の個人差に注目。患者4584人と健康な8801人の遺伝情報を比較した。
その結果、欧米の研究で前立腺がんとの関連が知られる31カ所のSNPのうち、19カ所が日本人と関係していることが判明。また、日本人にのみ関連する5カ所の新たなSNPを見つけ、うち1カ所は、性ホルモンを作る遺伝子に関連していた。これら計24カ所のSNPのいずれかを持つ人は、通常の人より1.13〜1.75倍も前立腺がんにかかりやすいことも分かった。
唾液腺や肺などの臓器を形成する働きのある遺伝子を、大阪大の阪井丘芳教授と米国立衛生研究所の共同研究チームが発見した。多くの臓器は、上皮組織が枝分かれを繰り返すことによって形成されており、発見した遺伝子は枝分かれを誘導する作用がある。30日付の米科学誌サイエンスに発表した。
研究チームは、マウスの胎児から唾液腺細胞を採取。唾液腺の上皮組織のうち、枝分かれのある部分とない部分の細胞を取り出して比較した結果、枝分かれのある部分には遺伝子「Btbd7」が強く発現していることが判明した。唾液腺にたんぱく質「フィブロネクチン」を加えるとBtbd7が活性化し、上皮組織の枝分かれが加速することも突き止めた。
阪井教授は「Btbd7は枝分かれに重要な役割を果たしており、臓器を形作る上で必要。再生医療に応用できる可能性がある」と話している。
胃潰瘍の発症や悪化にかかわる酵素を、反町洋之・東京都臨床医学総合研究所参事研究員らのチームが発見し、29日付の米科学誌プロス・ジェネティクス(電子版)に発表した。酵素を作る遺伝子の特徴を調べることで、胃の弱い人を事前に把握することが可能になるため、予防や治療法開発に道を開くと期待される。
チームは、胃粘膜表面の粘液分泌細胞に多く存在する2種類の酵素に注目。これらの酵素が働かないマウスを作り、ウイスキー程度のアルコール溶液を飲ませると、通常のマウスより胃粘膜の損傷が大きくなることに気付いた。
また、二つの酵素の働きを調べたところ、二つが一体となって胃粘膜を保護し、損傷があると粘液を多めに出したり、新しい細胞を供給する「修復」に携わっていることをうかがわせた。いずれの酵素も、酵素を作る遺伝子の配列の一部が異なると機能が失われた。こうした遺伝子のタイプの人は発症しやすいとみられる。
厚生労働省によると、国内の患者数は約43万5000人。ピロリ菌や抗炎症剤の副作用で粘膜が傷つけられ、ストレスやアルコールといった刺激で発症・悪化するとされる。反町さんは「2種類の酵素がこれらの要因に加え、発症しやすさや、悪化するかどうかの鍵を握っているのではないか」と話す。
コレステロール値が高く、高脂血症と診断された人の方が、そうでない人よりも脳卒中の死亡率が低く、症状も軽くなるという調査結果を、東海大の大櫛陽一教授(医療統計学)らがまとめた。
一般には高脂血症は動脈硬化を引き起こすため危険と考えられており、今後、議論が高まりそうだ。
大櫛教授らは動脈硬化が一因とされる脳卒中(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)で入院した患者計1万6850人を対象に、高脂血症の有無と死亡率、症状の強さを比較した。
その結果、脳梗塞で入院した患者のうち、高脂血症でない9851人が入院中に死亡した割合は約5・5%だったが、高脂血症の2311人の死亡率は約2・4%にとどまった。脳内出血や、くも膜下出血でも、高脂血症があると、死亡率は半分から3分の1だった。
骨形成の制御にかかわる新しい遺伝子を、埼玉医大ゲノム医学研究センター(埼玉県日高市)の岡崎康司教授らが発見し、9日付の米科学誌「プロス・ジェネティクス」電子版で発表する。岡崎教授は「骨粗しょう症の治療や創薬につながる手がかりになる」と話している。
老人性骨粗しょう症では、骨髄中の脂肪細胞が増える特徴がある。骨のもととなる幹細胞が、骨を作る骨芽細胞ではなく、脂肪細胞に分化してしまうことが原因と考えられている。
岡崎教授はマウスの幹細胞を骨芽細胞と脂肪細胞に分化させ、約3万の遺伝子の発現量の変化を解析。結果、「Id4」という遺伝子が骨芽細胞では活発に働き、脂肪細胞では活動が減少することを発見した。
さらに、Id4の遺伝子を欠損させたマウスでは、骨の量が半分以下になり、脂肪細胞が増えるという骨粗しょう症の特徴を持つことも判明した。
チベット人のほとんどが“世界の屋根”と呼ばれる高地での生活に遺伝的に適応しているとする新たな研究が発表された。
チベット高原の標高は4000メートルを超える。このような高地では、ほとんどの人は体の細胞に届く酸素が過度に減少する低酸素症を発症しやすくなり、重篤化すれば肺や脳の炎症を起こして命にかかわる恐れもある。
チベット人の多くは高地で生き延びるために、血中のヘモグロビンの量を抑えるよう独自に変異した2つの遺伝子を持つことが今回の研究で発見された。
この研究を率いた、ユタ州ソルトレークシティにあるユタ大学エクルズ人類遺伝学研究所のテータム・サイモンスン氏は、ヘモグロビンは赤血球の中にある酸素を運ぶ成分であるため、この発見は「直感に反するように感じられるかもしれない」と話す。「高地に適応していない人が高地に行った場合、酸素の減少を補うためにヘモグロビンの濃度が上がるのが普通だ」。しかし血中のヘモグロビンが増えると、高血圧や慢性高山病のような合併症の原因となることがこれまでにも指摘されており、そのような体への悪影響を避けるために、チベット人の遺伝子は「ヘモグロビンをあまり多く作らないように変異した可能性がある」と同氏は説明する。
これまでの研究で、チベット人は海に近い低地に住む人に比べて酸素不足を補うために1分間の呼吸数が多いことが判明している。加えて、チベット人の血管は太く、体の細胞に酸素を運ぶ効率性に優れている。
サイモンスン氏の研究チームは、チベット人が高地生活に適応できる遺伝的要因を探すために、標高4486メートルに住むチベット人の血液サンプルを集めた。次に、チベット人のDNAの遺伝的変異のパターンを解析し、チベット人と遺伝的に近いとされる低地に住む中国人と日本人の遺伝的変異に関する既存のデータと比較した。
その結果、チベット人には酸素の運搬など高地生活に関連した複数の遺伝的変異が見られたが、低地の中国人と日本人には見られなかった。チベット人のみに見られた変異には、ヘモグロビンの生成を抑えることと深い関わりを持つ2つの遺伝子も含まれていた。
今後は、変異した遺伝子が具体的にどのような働きをするかについて詳細を明らかにする研究が続けられ、その成果は高山病の予防法の開発に役立つかもしれないとサイモンスン氏は期待を深める。
この研究は「Science」誌で2010年5月13日にオンラインで公開された。
手先が勝手に動き、認知障害などの症状を示す遺伝性の神経難病「ハンチントン病」は、傷ついたDNAを修復する酵素の不足が原因で発症することを、東京医科歯科大学の岡沢均教授らが突き止めた。
酵素を補えば進行を抑えられる可能性がある。科学誌「ジャーナル・オブ・セルバイオロジー」電子版に発表した。
ハンチントン病は、発症すると脳が萎縮し、やがて死亡する。患者の細胞では「ハンチンチン」と呼ばれるたんぱく質を作る遺伝子が通常より長いなどの特徴があるが、なぜ発症するかは不明だった。
岡沢教授らは、患者に特有のハンチンチンが、切断されたDNAを修復する酵素と結びつき、働けなくしていることを発見。通常は生後約100日で死んでしまうハンチントン病のマウスの脳で、この酵素を作る遺伝子の働きを強めてやると、寿命は130〜140日に延びた。
岡沢教授は「ハンチンチンと酵素の結合を邪魔する化合物や、酵素の補給方法が見つかれば、有効な治療法になる」と話している。
歯ぐきが細菌によって溶ける歯周病について、患者の骨髄液から骨や筋肉のもとになる幹細胞を採取して培養後に患部へ移植し、歯ぐきを再生させることに広島大の研究グループが成功した。患者対象の臨床研究で、移植をした患部は4〜8ミリほど歯ぐきが回復した。細胞培養技術の向上などで再生効果を高め、3年以内に厚生労働省へ先進医療を申請、実用化を目指す。
広大の栗原英見教授(歯周病学)と広大発祥のベンチャー「ツーセル」(広島市、辻紘一郎社長)の臨床研究で、18日から広島市である日本再生医療学会で成果を発表する。
30〜65歳の歯周病患者の男女11人から骨髄液を採取。この中に含まれる間葉系幹細胞を培養・増殖させ、医療用コラーゲンと混ぜて歯周病患部へ注入した。11人のうち、転居などで経過を追跡できなかった3人を除く8人中6人で、歯ぐきの回復や、歯周病で生じた歯と歯ぐきの間のすき間が小さくなった。移植した幹細胞が歯周組織となったり、もともとあった細胞の増殖を促す物質を出して自力での組織再生を後押ししたとみられる。
歯周病患者は国内に約3700万人いるとされる。今回の臨床研究は軽症者を対象としたが、今後、中・重症者でも効果が出るよう、採取した細胞からある程度組織を作成したうえで移植するなどの方法で臨床研究を重ねる。栗原教授は「さらに効果を高め、多くの人に使える治療法を確立させたい」と話している。
がんの治療薬として再承認されたサリドマイドが、四肢の短縮など胎児の奇形を引き起こす仕組みを、東京工業大と東北大が動物実験で解明した。四肢の形成に重要な役割を果たすたんぱく質の働きを、サリドマイドが阻害していたという。奇形を招かない類似の新薬開発につながると期待される。12日付の米科学誌「サイエンス」で発表した。
東工大の伊藤拓水研究員、半田宏教授らは、磁性のある微粒子と磁石を使いサリドマイドがセレブロンというたんぱく質と結合することを突き止めた。
次にセレブロンの機能を調べるため、魚のゼブラフィッシュの受精卵に、セレブロンを作らないようにする物質を注入。生まれたゼブラフィッシュに、胸びれが生えなかったり耳が小さくなる奇形が生じた。さらに、ゼブラフィッシュやニワトリの受精卵で、セレブロンがサリドマイドと結合できないよう操作した後、サリドマイドを投与すると、胸びれや翼が生え、奇形を招く性質が抑えられることを確認した。
セレブロンはヒトでも四肢の形成にかかわるとみられ、研究チームは「がんなどの治療薬としてのサリドマイドの有効な作用に、セレブロンが関係しているのか今後調べたい」と話す。
サリドマイドは1950年代以降、鎮静・催眠剤として世界的に服用されたが、大規模な薬害が起き販売停止となった。その後、98年に米国がハンセン病の治療薬として承認。血液のがん「多発性骨髄腫」の治療薬としても米国が06年、日本が08年に承認するなど、多くの国が認めている。
ベジタリアンでもハンバーガーの魅力に抵抗できない時があるが、草食のゴリラも近縁種への強烈な食欲に屈する場合があるかもしれないという研究が発表された。
従来、飼育下で肉を食べることがあっても、野生のゴリラはもっぱら植物や果実を主食とし、たまに口にするとしても昆虫ぐらいだと考えられてきた。
しかし、アフリカのガボンにあるロアンゴ国立公園に生息する野生のマウンテンゴリラの排泄物から、サルのDNAと、森林に生息する小型レイヨウの一種、ダイカーのDNAが見つかった。
今回の発見により、腐肉をあさったり狩りを行うなどして、密かに肉食生活を送っている可能性が浮上してきた。
研究チームの一員で、ドイツのライプチヒにあるマックス・プランク進化人類学研究所の霊長類学者グリット・シューベルト氏は次のように話す。「驚くべき発見だが、もっと常識的な説明もできる。ゴリラを肉食動物として再分類する前に、あらゆる可能性を考察する必要があるだろう」。
例えば、ゴリラはアリを食べるが、アリはサルなど哺乳類の死骸や骨をあさることがある。そのようなアリを食べれば、アリの消化管に残っていた哺乳類DNAが取り込まれて排泄される可能性がある。
また、ゴリラの排泄物に残った植物の種などをあさっていたサルやダイカーのDNAである可能性もある。「サルやダイカーが、ゴリラの排泄物をなめたり、においをかいだり、尿をかけただけかもしれない」とシューベルト氏は付け加える。「ゴリラの排泄後に、哺乳類のDNAが加わる可能性はいくらでもある。肉食の野生ゴリラなんて、私にはどうも合点がいかない」。
ゴリラが肉食だとしても、“肉を食べる初の大型類人猿”というわけではない。チンパンジーやその類縁にあたるボノボは、サルを含めほかの哺乳類を狩って、その肉を食べることが知られている。
研究チームの一員で同じくマックス・プランク進化人類学研究所の遺伝学者ミヒャエル・ホフライター氏は、「たいていの場合、草食動物は肉の消化に困ることはない。逆だとそうはいかないが」とコメントした。
脳内でてんかんの発症を防いでいるたんぱく質を、自然科学研究機構生理学研究所(愛知県岡崎市)の深田優子准教授(神経科学)ら日米のチームが特定した。別のたんぱく質と結合して、脳の神経細胞の興奮を上手に調節しているらしい。25日付の米国科学アカデミー紀要(電子版)に発表した。
てんかんは神経細胞が過剰に興奮する疾患で、人口の約1%が発症するといわれる。症状や背景は多様で、発症の仕組みはよく分かっていない。
チームは06年、神経細胞のつなぎ目のシナプスから「LGI1」というたんぱく質を発見した。病気との関連を探るため、LGI1を作れないマウスを作ったところ、すべてが生後2〜3週間で重いてんかん発作を起こして死んだ。
さらに、健康なマウスのシナプスで、LGI1の働きを調べた。その結果、LGI1は神経細胞の外に放出された後、別の2種類のたんぱく質と結合し、シナプスに橋をかけるように存在すると考えられた。一方、LGI1を持たないマウスは、両たんぱく質がシナプス周辺に存在しなかった。チームは3種のたんぱく質が正常に結合することで脳の興奮を調節し、てんかん発症を防いでいると結論付けた。
人を対象にした欧米の研究では、ある種の遺伝性てんかんの約30家系でLGI1遺伝子に変異があることが分かっている。チームの深田正紀教授は「てんかんの新たな発症メカニズムの一端を解明できた。LGI1を補うなど、新しい抗てんかん薬開発につながる可能性もある」と話す。
山中伸弥京都大教授らが「人工多能性幹(iPS)細胞」を作るのに使った3種類の遺伝子のうち、最後まで代わりの遺伝子や化合物が見つかっていなかった「Oct4」も、別の遺伝子で代替できることが分かった。シンガポール・ゲノム研究所などの研究チームがマウスの胎児細胞で成功し、米科学誌セル・ステムセル電子版に22日発表した。
iPS細胞は身体の多様な細胞に変わる万能細胞で、ヒトでは難病患者の再生医療への応用が期待されている。研究成果は、iPS細胞ができる仕組みを解明し、遺伝子導入法より安全で作製効率が高い、化合物だけによる作製法を開発するのに役立つとみられる。
Oct4の代わりになると分かったのは、細胞核内の受容体を生み出す遺伝子「Nr5a2」。受容体は特定の分子と結合して機能するたんぱく質だが、この受容体はこれまで、結合する分子や役割が不明だった。
今回、マウス胎児細胞に3遺伝子をウイルスを使って導入する際、Oct4の代わりにNr5a2を使うと、iPS細胞や、受精卵(胚)から作る「胚性幹(ES)細胞」で、多様な細胞への分化能力を担う遺伝子「Nanog」を働かせる役割があることが分かった。
細胞内にある「Hsp90」というタンパク質が、がん細胞を悪性化する酵素の一つ「Polη(イータ)」の働きを促進していることを、群馬大生体調節研究所の研究グループが突き止めた。抗がん剤でHsp90の働きを阻害し、がん細胞の悪性化を抑える研究が進んでいるが、その仕組みが判明したのは初めて。14日付の米科学誌「モレキュラーセル」(電子版)に掲載された。
研究グループによると、細胞ががん化すると、Hsp90の働きが活発化する。また、がん細胞は遺伝子の変異を繰り返してさらに悪性化するが、Polηは変異を促進させることが分かっていた。山下孝之教授らは、培養したがん細胞でHsp90とPolηが結合していることを確認。Hsp90阻害剤を用いると、Polηが分解されたり、働きを抑制することができたという。
山下教授は「Hsp90の働きが分かったことで、より効果的に抗がん剤を活用し、がんの悪性化を食い止められるようになるのではないか」と話している。
太っていない人が糖尿病を発症しやすくなる遺伝子変異を、徳永勝士・東京大教授らのグループが発見した。
患者と健康な人あわせて計3268人の遺伝子を分析した結果、この変異を持つ人は変異のない人に比べ、糖尿病になる危険性が1・75倍に上昇。特に肥満でない人に限ると、危険性が2・51倍に跳ね上がっていた。糖尿病につながる遺伝子は数多く見つかっているが、非肥満型のリスク遺伝子は初めて。米人類遺伝学会誌に8日、発表する。
この遺伝子はKCNJ15と呼ばれ、膵臓の細胞でインスリンの分泌を抑えるたんぱく質を作り出す。インスリンの分泌が減ると、筋肉や脂肪の細胞が血液中の糖分を取り込まなくなるので、太りにくい反面、糖尿病になりやすくなる。新たに見つかった変異は、この遺伝子の働きを過剰に高めるため、インスリンが不足し、やせ形で発症する危険を高めるとみられている。
欧州の糖尿病患者には肥満が多いのに対して、日本を含むアジア各国では、肥満でない人の発症が多い。
ヒトの全遺伝情報(ゲノム)の中に、RNAウイルスの遺伝子が取り込まれていることを大阪大の朝長啓造准教授らが発見した。4000万年以上前に感染した痕跡とみられ、ウイルスと人類が互いに関連しながら進化してきた謎を解明する手掛かりになるという。7日付の英科学誌ネイチャーに発表した。
生物は感染したレトロウイルスの遺伝子を取り込み、自らのゲノムを多様化させてきた。現在まで残ったこれらの遺伝子は「ウイルス化石」と呼ばれるが、レトロウイルス以外は見つかっていなかった。
朝長准教授らは、RNAウイルスの一種で脳神経細胞に感染しやすいボルナウイルスの遺伝子の一部が、ヒトやアフリカゾウ、マウスなど哺乳類のゲノムに存在することを新たに発見。ヒトの祖先が枝分かれした4000万年前までにこのウイルスに感染し、ゲノムに取り込まれた可能性が高いことが分かった。
朝長准教授は「ボルナウイルスの感染の仕組みが分かれば、遺伝子治療に応用できる。神経細胞に外部から遺伝子を導入する際の運搬役など、新しい利用法の開発につながるのではないか」と話している。
原因不明の激しい疲労が半年以上も続く「慢性疲労症候群(CFS)」を診断できる血液中のたんぱく質を、大阪市立大の木山博資教授(解剖学)らが発見した。
CFSには自覚症状を中心に判定する診断基準はあるが、血液の検査値など客観的な指標(マーカー)はなく、今回の発見は健康診断などに活用できそうだ。
木山教授らは、5日連続の運動で極度に疲労させたラットの脳下垂体の中葉と呼ばれる部分を分析。「α―MSH」というたんぱく質が異常に分泌され、血液中のα―MSHの量も上昇していくことを突き止めた。α―MSHの分泌は神経伝達物質ドーパミンが抑制しているが、ラットでは疲労がたまるにつれドーパミン産生能力が低下していた。
一方、CFSと診断された患者57人と、健康な30人の血液を使い、α―MSHの量も測定した。その結果、発症後5年未満の37人の平均値は健康な人に比べ、約50%も高かった。一晩徹夜した人の血液を調べてもα―MSHの量に変化はないことから、短期間の疲労とは関係がないこともわかった。CFS患者は潜在する人も含め、国内に200万人以上いるとされる。
めまいや耳鳴り、難聴などを起こすメニエール病について、耳の内部にある球形嚢と呼ばれる器官内で、微小な炭酸カルシウムの石(耳石)がはがれ落ちて内リンパ液の通り道をふさいだ結果、内耳が内リンパ水腫になって発症するという説を、大阪市立大大学院医学研究科の山根英雄教授=耳鼻咽喉病態学=らのグループがまとめた。メニエール病患者の内耳に水腫が生じていることは分かっていたが、水腫の原因は不明だった。
山根教授は、12人の患者の症状のある耳の内部を三次元CT(コンピューター断層撮影装置)で撮影。8人で球形嚢(直径約2ミリ、高さ約3ミリ)の中にある耳石(大きさ10〜20マイクロメートル)が複数はがれ、下にあるリンパ液の通り道(結合管、直径約0.1ミリ、長さ2〜3ミリ)に集まっているのを確認した。
山根教授は、メニエール病患者の内耳では、結合管の詰まりで蝸牛が内リンパ水腫になって聴覚障害を起こしたり、球形嚢の機能不全で平衡感覚が乱れると推定している。
不規則な生活で塩分を取ると高血圧症になる原因を、京都大学大学院薬学研究科の岡村均教授(システムバイオロジー)らの研究チームが動物実験で世界で初めて突き止め、14日付(日本時間)の米医学誌「ネイチャー・メディスン」(電子版)に掲載された。塩分を大量に摂取すると高血圧症になりやすいとされているが、原因は不明だった。今回の研究で、改めて規則的な生活の重要性が証明された形だ。
研究チームは、遺伝子を改変して生体リズムを壊したマウスで実験。ホルモンを出す臓器「副腎」から、体内の塩分量を一定に保つ作用があるホルモンが過剰に出ていることがわかった。
さらに副腎の遺伝子解析で、このホルモンを作る特定の酵素「水酸化ステロイド脱水素酵素」が通常の5倍以上生まれていることも判明。マウスに食塩を与えると、高血圧になった。
このことから不規則な生活が、すでに高血圧への“準備段階”になっていることが、わかった。
岡村教授は「この酵素は人にもあり、同じ作用をする可能性が高い」と指摘した上で「不規則な生活が不健康になる一面が科学的にも証明された。現代人の教訓にしてほしい」と話している。
ショウジョウバエを50年以上、約1400世代にわたって真っ暗な中で飼い続けると、姿や生殖行動などに変化が起きることが、京都大の研究でわかった。
生物の進化の謎を実験によって解き明かす初の成果として注目を集めそうだ。横浜市で開かれる日本分子生物学会で9日発表する。
1954年、理学部動物学教室の森主一(しゅいち)教授(2007年2月死去)が、暗室でハエの飼育を開始。以来、歴代の教員や学生らが、遺伝学の実験用に代々育ててきた。
暗室のハエは、においを感じる全身の感覚毛が約10%伸びて、嗅覚が発達。互いをフェロモンの違いで察知して繁殖し、通常のハエとは一緒に飼ってもほとんど交尾しなくなっていた。
全遺伝情報を解読した結果、嗅覚やフェロモンに関する遺伝子など、約40万か所でDNA配列の変異が見つかった。視覚にかかわる遺伝子の一部も変異していたが、光には敏感に反応するので視覚はあるらしい。ショウジョウバエの寿命は約50日。1400世代は、人間なら3万〜4万年に相当するという。
阿形清和・京大教授は「通常とは異なる環境で世代を重ねることで、まず嗅覚などの感覚器官に差が生まれ、それが生殖行動に影響し、やがて種の分化につながっていくと推測できる」と話している。
奈良女子大学理学部の荒木正介教授(発生生物学)の研究グループが、カエルの一種であるアフリカツメガエルの網膜組織の再生について、特定の遺伝子の状態が影響していることを突き止めた。この遺伝子はヒトの網膜組織をつくる際にも重要な役割を果たしており、荒木教授は「再生メカニズムが解明されれば、将来的にヒトの網膜再生に応用できる期待もかけられる」と話している。
荒木教授は以前、イモリの網膜再生メカニズムをアフリカツメガエルに応用。特殊なタンパク質「FGF2」が関与することで、網膜の外側にある色素上皮細胞が網膜の神経細胞として再生し、細胞分化して増殖する仕組みを解明していた。
今回、研究グループは、その成果も踏まえてさらに再生メカニズムを研究。人工培養下で世界で初めて、アフリカツメガエルの網膜再生実験に成功した。
この実験の過程で、網膜組織の再生に重要な働きを果たす遺伝子「PAX6」の状態を検証。色素上皮細胞をアフリカツメガエルから取り出して特殊なゲルで覆い、FGF2を投与したところ、初期の段階ではPAX6の値が上昇し再生が可能となったが、一定時間が過ぎるとPAX6の値は減少に転じ、再生は行えなくなったという。
FGF2が網膜再生にかかわる遺伝子に働きかけるというこれまでの研究成果に加え、新たにPAX6の状態が再生の成否に重要な影響を及ぼしていることが判明した。
PAX6は、ヒトなどでも網膜組織をつくる上で重要な役割を果たすことが分かっている。荒木教授は「カエル以外に、ほ乳類などでもPAX6の出現やFGF2との関与が詳しく分かれば、ヒトの網膜の再生医療にも応用できる可能性が出てくる」としている。
神経機能の発達に重要な役割を果たす特定のタンパク質を、京都大大学院医学研究科の西英一郎准教授(循環器内科学)と大学院生の大野美紀子さんの研究チームが突き止め、23日付の米科学誌「ネイチャー・ニューロサイエンス」(電子版)に掲載された。脊椎動物の体内にあるタンパク質「ナルディライジン」が、運動や認知機能にかかわる神経の一部「軸索」の発達をコントロールすることを動物実験で解明。脳などに異変が起こる多発性硬化症や、認知症治療に期待されるという。
軸索は、神経細胞が受けた情報を脳に伝える働きを持ち、発達すれば軸索自体が太くなり、軸索の近くにある絶縁体「髄鞘」が軸索に巻きつく構造。髄鞘に巻かれた軸索が増えると、情報を伝えるスピードがアップし、運動機能や認知機能が上昇するという。
研究チームは、マウス実験で運動神経や記憶力を計ったところ、このタンパク質をなくしたマウスは運動機能が2分の1〜3分の1程度の低下がみられ、短期記憶力も下がり、人の認知症の初期の症状が現れることがわかったという。
西准教授は「このタンパク質は、神経機能が正常に発達する上で不可欠とわかった。認知症患者らでこのタンパク質が不足しているかなどを調べ、投与による治療の可能性も考えていく」としている。
さまざまな臓器になるネコの「間葉系幹細胞」をブタの腎臓の基となる細胞「腎臓原基」に注入し、ネコの体内で腎臓の組織を再生することに、自治医科大や東京慈恵会医科大などの研究チームが成功した。尿の生成も確認した。ネコの代わりに人の細胞を使えば、病気の腎臓に置き換える人工臓器作りに役立つ可能性がある。
間葉系幹細胞は、骨髄などに含まれ、血管や筋肉などになる。この細胞は人にも存在する。
実験では、腎臓原基(約1ミリ)を妊娠中期のブタの胎児から取り出した。それにネコの間葉系幹細胞を注入、片方の腎臓が摘出されたネコに移植した。すると、4週間後に腎臓原基が8〜10ミリに成長し、ネコの血管が通った。また、血液をろ過する糸球体や尿細管も形成され、尿がたまったことが確認できた。
ブタの臓器は人の大きさに近い。中国やメキシコなどでは、インスリンを分泌する膵島がブタから人に移植されている。研究チームの小林英司・自治医科大客員教授は「ブタの腎臓原基がネコの臓器再生の足場になり、臓器形成に近づいてきた。日本での臓器移植の実施件数は極めて少ない。人工的に臓器を作り出し、難病で苦しむ患者の治療につなげたい」と話す。
脳梗塞の原因となるアテローム性動脈硬化症についての新治療法を発見したと、岡山大、就実大、オーストラリアのベイカー研究所の研究グループが19日明らかにした。
アテローム性動脈硬化症は、高脂血症や高血圧症などが原因で、太い動脈血管の内膜層に細胞やコレステロールが集積し炎症を起こす。研究グループはこの炎症の原因とみられる物質の作用を中和する抗体を作成した。
症状を持つモデルマウスに8週間にわたり、週2回抗体を投与したところ、炎症の形成が約6割抑制されたという。
研究グループの岡山大大学院の西堀正洋教授によると、高脂血症などアテローム性動脈硬化症の促進病態には、一般的に血中コレステロール値を下げる治療が行われている。しかし、今回発見した炎症の形成自体を阻む方法により、より根本的な治療につながる可能性があるとしている。
ぐっすり眠っている人の脳に刺激を与えることで、特定の記憶を強化できることを、米ノースウエスタン大のチームが実験で確かめた。睡眠学習への応用も期待できそうだ。20日付の米科学誌サイエンスに掲載された。
実験は19〜24歳の男女12人に実施した。コンピューター画面のさまざまな場所に、割れたグラスやヘリコプター、猫など50種類の絵が順番に現れ、猫の絵を表示している間には鳴き声など関連する音を聞かせて、表示位置を覚えてもらった。
1度目のテストの後、全員が約1時間の昼寝をした。「ノンレム睡眠」と呼ばれる深い睡眠のうち、眠りがさらに深まった段階で、50個中25個の音を聞かせた。目覚めた後に2度目のテストをしたところ、睡眠中に音を聞かせた25個の方が、聞かせなかった25個より表示位置を正確に覚えていた。しかし被験者は、睡眠中に音を聞いた認識がなかった。
チームは別の12人に同じ学習をさせ、昼寝の代わりに別の作業をしながら25個の音を聞かせた。2度目のテストの成績は、音を聞かせた絵とそうでない絵との間で差は見られなかった。
睡眠中の脳が大量の情報を取捨選択して定着させていることは、脳が働いて体が休んでいる浅い眠りの「レム睡眠」中と考えられていたが、脳も体も休んでいる「ノンレム睡眠」中では、詳しくは分かっていない。
脳と記憶の関連を研究している科学技術振興機構の黒谷亨(くろたに・とおる)研究員(神経生理学)は「脳が休んでいるはずの深い睡眠中にも、別のモードで脳は活動しているようだ。記憶を定着させる新しい仕組みの解明につながるかもしれない」と話す。
古代エジプトの上流階級では、中高年で動脈硬化症を患う人が多かったと、米カリフォルニア大などの研究チームが18日付の米医師会誌に発表した。
約4000年前までのミイラ20体をコンピューター断層撮影装置(CT)で調べたところ、心臓や動脈を確認できた16体のうち、9体に動脈の石灰化がみられた。このうち7体が、死亡時に45歳以上だったと推定される。最も古い「患者」は、約3500年前の30〜40歳の子守の女性だった。
研究チームがこの調査をしたきっかけは、エジプト考古学博物館にあるファラオ「メルエンプタハ」のミイラ。60歳ごろに死去し、動脈硬化と関節炎、虫歯を患っていたとされる。
動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞が死因になったかや、当時の食生活は不明。しかし、現代の生活習慣上のリスク以外にも、動脈硬化を招く要因があるかどうかを検討する手掛かりになるという。
コレステロールや中性脂肪の値が高い人の方が脳卒中を起こしにくく、発症した場合も状態が良いとのデータを、大櫛陽一東海大教授らがまとめ、24日までに日本脂質栄養学会誌に発表した。
同教授らはこれまでにも、これらの値が低いほど死亡率が高いなどの研究結果を発表。「(悪玉とされる)LDLコレステロールも中性脂肪も実は善玉なのに、リスクが強調され、無駄な治療がなされている」と問題視している。
同教授らは、脳卒中患者のデータベースに登録された男性約2万8000人、女性約2万人のデータと、福島県郡山市の一般住民のデータを比較。計約4万8000人のうち、脳梗塞を起こした患者を見ると、高脂血症でない人と高脂血症を治療している人の比率が一般住民より高く、高脂血症(未治療)の人の割合は低かった。
年齢や性別の影響を除いて解析したところ、高脂血症(未治療)の人の脳梗塞発症リスクは、高脂血症でない人の約4分の1にとどまり、治療している人のリスクは、未治療の人の4.6倍だった。
「かゆみ」を感じる脳の部位を、自然科学研究機構生理学研究所(愛知県岡崎市)の柿木隆介教授らが特定し、24日までに米学会誌に発表した。頭頂葉内側部の楔前部(けつぜんぶ)と呼ばれる部位で、類似点が指摘される「痛み」とは別の、かゆみ独自のメカニズムの存在を明らかにしたのは初めてという。
柿木教授は「アトピーなどのかゆみを抑制する薬の開発につながるかもしれない」としている。
柿木教授らは、手首に取り付けた電極を通じ、かゆみを電気的に引き起こす装置を開発。機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)と脳磁図で被験者の脳内を調べたところ、感覚の情報を処理する楔前部が反応していることを突き止めた。
肝臓のがん細胞のほとんどを、正常な細胞に変化させることに、米ハーバード大の森口尚史研究員(肝臓医学)らが、マウスの実験で成功した。
遺伝子と化学物質を使う手法をとった。新たながん治療につながる成果で、2日から米ボストンで開かれる幹細胞シンポジウムで発表する。
研究チームは、がん細胞の7割近くを正常な細胞に変えられる2種類の化学物質を発見。がん細胞の一部を正常な細胞に変える能力を持つ遺伝子とともに、人のがん細胞を移植したマウスの肝臓に導入した。
その結果、マウス8匹はすべて8週間生きており、がん細胞の85〜90%は見た目も性質も正常な細胞となっていた。一方、何も導入しなかったマウス8匹は、がんによって3週間以内に死んだ。
様々な犬の毛並みがたった三つの遺伝子で決まっていることがわかり、米国立ヒトゲノム研究所などのチームが米科学誌サイエンス電子版で発表した。
純血種の犬は、短毛、長毛、巻き毛など7タイプに分類できる。研究チームは80種1000匹の犬のゲノム(全遺伝情報)を解析、「長さ」「巻き毛」「長いひげやまゆげのような毛」に、それぞれ影響する三つの遺伝子の変異の組み合わせで、この7タイプが説明できることを突き止めた。
解析によると、短毛のビーグルは三つの遺伝子ともに変異がなく、犬の祖先のオオカミに近い。逆に、巻き毛のプードルは三つの遺伝子すべてに変異がある。ふさふさとした長毛のゴールデン・レトリバーは、長さを決める遺伝子だけに変異があった。
様々な細胞に変化する人の新型万能細胞(iPS細胞)を1個の遺伝子を導入するだけで作ることに、独マックスプランク分子医薬研究所などのチームが成功した。
使う遺伝子が少ないほど、がん化の危険性を減らせるため、安全な再生医療につながると期待される。英科学誌ネイチャーに29日発表する。
研究チームは、材料に中絶胎児の神経幹細胞を選択。この細胞に、京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞の作製に使った4個の遺伝子のうち、がん化の恐れの少ない遺伝子1個を導入した。その結果、10〜11週間後にiPS細胞ができ、筋肉や神経の細胞に変化することが確認できた。
国立成育医療センターの阿久津英憲室長は「細胞の種類によって、iPS細胞の作りやすさが違うことが分かった。安全性の高い再生医療への応用に近づく」と話している。
iPS(人工多能性幹)細胞は低酸素濃度で培養すると作製効率が高まることを、京都大iPS細胞研究センター長の山中伸弥教授とセンターの吉田善紀助教らのグループが突き止め、米科学誌「セル・ステム・セル」で28日発表した。遺伝子導入にウイルスを使わないなど安全な手法によるiPS細胞作製の効率化につながる成果という。
iPS細胞は、人の細胞では作製効率が1%以下と低いことが実用化に向けた課題の一つになっている。組織幹細胞やES(胚(はい)性幹)細胞の機能の維持などに酸素濃度が関係していることから、山中教授らは酸素濃度とiPS細胞の作製効率の関係を調べた。
密閉容器の中の酸素濃度を5%にして2週間培養して作製した場合、大気と同じ21%の場合に比べiPS細胞株の数が約4倍に増えた。
同様の条件で、ウイルスを使わずにプラスミド(環状DNA)などで遺伝子を導入する手法でも、作製効率は向上した。しかし、酸素濃度を1%にまで下げると、数日で死んでしまう細胞も見られたという。
山中教授は「iPS細胞の作製効率の向上に最適な酸素濃度と培養期間を探りたい」としている。
免疫力を高めてがん細胞を攻撃するペプチドワクチン療法の臨床試験で、ワクチンに反応するリンパ球が陽性の患者は陰性の患者に比べて生存日数が2倍以上長く、末期患者も半数が400日以上生存することが28日、東京大学医科学研究所の中村祐輔・ヒトゲノム解析センター長のまとめで分かった。免疫反応と治療効果の関係が科学的に証明されたのは初めて。体質に合った効率的な治療に役立つと期待される。
中村センター長は全国の大学病院などの協力を得て臨床試験を実施。平成18〜20年に行った130人の長期生存患者の血液を分析し、ペプチドワクチンに対するリンパ球の反応を調べた。その結果、陽性患者では半数以上が400日以上生存し、800日を超えた患者も4割近かった。一方、陰性患者では半数が200日以内で亡くなり、400日以上生存した患者は約2割だった。
中村センター長は「ワクチン療法の効果を科学的に実証できたのは画期的。患者ごとの治療効果を早期に検証することが望ましい」と話す。
ペプチドワクチン療法は、がん抗原からアミノ酸化合物のペプチドを人工的に合成し、投与する。強い副作用がないとされ、外科療法、抗がん剤療法、放射線療法に次ぐ「第4の治療法」として注目されている。
血液がんの一種の悪性リンパ腫が起きる仕組みを、小川誠司・東京大病院特任准教授(血液腫瘍学)らが解明し、4日付の英科学誌ネイチャー電子版に発表した。一部の悪性リンパ腫では、胃炎など慢性的な炎症が引き金だった。炎症抑制が悪性リンパ腫の治療につながる可能性を示す成果として注目されそうだ。
悪性リンパ腫は、免疫機能を担うリンパ球にできるがんで、国内で年約8500人死亡している。
研究チームは、遺伝子を構成する物質「塩基」の配列の個人差を高効率で検出する技術を開発、悪性リンパ腫患者約300人で調べた。すると、主に消化管にできる「マルトリンパ腫」など2種類の悪性リンパ腫では、約2割の患者が、遺伝子A20の配列に変異があり働いていなかった。
この遺伝子は、炎症発生時にリンパ球が際限なく増殖しないようブレーキ役となっている。A20が働かない悪性リンパ腫細胞をマウスに移植すると、リンパ球が異常増殖、がんを発症した。A20が機能しない悪性リンパ腫細胞も、炎症で生じる刺激物質がないと増殖せず、炎症の有無ががん細胞増殖を左右していることが判明した。
全身の筋肉が徐々に弱くなる筋ジストロフィーのマウスに、新型万能細胞(iPS細胞)から作った筋肉細胞を移植して機能を改善することに、中畑龍俊教授ら(京都大)のグループが成功した。
6日、東京で開かれた日本再生医療学会で発表した。根本的な治療法がない筋ジストロフィーの発症を抑えることができる可能性があるという。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、筋肉の構造を維持するたんぱく質ジストロフィンが作られず、10歳ごろから歩行が困難になる。中畑教授らは、マウスのiPS細胞から筋肉を補強する細胞を作り、ジストロフィン遺伝子が欠損したマウスに移植した。
この細胞は筋肉に接着してジストロフィンを分泌し始め、筋肉組織を6か月以上、安定した状態に保ち続けた。
糖尿病のマウスの膵臓に特定の遺伝子を導入し、血糖値を調節するホルモン「インスリン」を分泌するベータ細胞を大幅に増殖させることに、東京慈恵会医科大が成功した。マウスの血糖値は約4カ月で正常値に戻り、寿命も健康なマウスと変わらなかった。研究チームは「ベータ細胞が少しでも残っている糖尿病患者の有効な治療法につながる可能性が高い」と話している。3月5日から東京都内で開かれる日本再生医療学会で発表する。
研究チームは、細胞分裂の周期を早める働きを持つ遺伝子を組み込んだウイルスを、生後10週の糖尿病マウスの膵臓に直接注射した。注射前に1デシリットル当たり約400ミリグラムあった血糖値が、16週間後には約200ミリグラムと、マウスの正常値近くまで下がった。ベータ細胞の数を調べたところ、注射前の2.5倍に増えていた。
実験で使ったウイルスは、遺伝子導入時にだけ働くタイプ。使った遺伝子もベータ細胞でしか働かないことが確認され、ウイルスや導入した遺伝子により、がんになる心配は少ないという。
糖尿病は、ベータ細胞の数が減ったり働きが落ち、インスリンの分泌量が少なくなり、血糖値が高い状態が続くようになる。東京慈恵会医科大の佐々木敬教授(糖尿病・代謝・内分泌内科)は「遺伝子導入という手法を使うが、極めて高い効率でベータ細胞が再生された。今後、大型動物の実験に取り組み、臨床応用を目指したい」と話している。
遺伝子変異で人間の免疫が効きにくいエイズウイルス(HIV)が広がっていることが、熊本大などの国際チームによる8か国2000人の感染者調査で確認された。
ワクチン開発戦略の見直しを迫る内容。26日付の英科学誌ネイチャーに掲載される。
HIVが体内に入ると、細胞内で増殖を繰り返し、エイズが発症する。体内の免疫細胞は、感染した細胞内で、ヒト白血球抗原(HLA)と呼ばれる特殊なたんぱく質と結合したHIVを攻撃するが、ウイルス内のある遺伝子に変異が生じると、免疫細胞が攻撃できなくなる。
研究チームはまず、特定のHLAが先天的にある感染者に注目。その細胞内の変異ウイルスを調べたところ、全体の96%から検出された。変異ウイルスがなぜ発生したかは不明だが、HLAのない感染者の29%からも検出された。HLAがある感染者の体内で変異ウイルスが増え、それが性感染などを通じ、HLAのない感染者に広がったらしい。
骨粗しょう症や関節リウマチの原因となる細胞の働きを解明し、マウスの骨の破壊を食い止めることに、大阪大学免疫学フロンティア研究センターの石井優准教授らが成功した。英科学誌ネイチャー電子版に9日、発表した。
骨は常に新陳代謝を繰り返しており、破骨細胞と呼ばれる細胞が古い骨を壊している。骨がぼろぼろになる骨粗しょう症や関節リウマチのほか、がんが骨に転移する際は、破骨細胞の働きが強くなることが知られている。だが、破骨細胞が実際に骨の中でどのように働いているかはこれまで明らかになっていなかった。
石井准教授らは、アメリカ国立衛生学研究所との共同研究で、特殊な顕微鏡を使い、世界で初めて生きたまま骨の内部を観察することに成功。破骨細胞の動きが、血中に流れる脂質の一種「スフィンゴシン1リン酸(S1P)」という物質により調節されていることを発見した。
また、石井准教授らはS1Pに構造が似ている化合物を使い、骨粗しょう症の状態にしたマウスの骨の破壊を6割軽減することに成功した。
石井准教授は、この治療法で骨の破壊の進行を止めるだけではなく、骨密度の修復も期待できるとし、骨が破壊される病気への根本的な治療法につながるという。石井准教授は「新たな骨の治療薬の開発につながる成果。早く臨床応用していきたい」と話している。
光触媒として使われる酸化チタンの微粒子を妊娠中のマウスに注射すると、生まれた子の脳や精巣に粒子が入り込み、細胞死や機能低下を引き起こすことが、東京理科大学の武田健教授と栃木臨床病理研究所の菅又昌雄所長らの研究で分かった。
1日付の日本薬学会の専門誌に発表する。
酸化チタンは光を当てると、汚れを分解する光触媒として、便器や浴室のタイルなどに使われる。日焼け止め化粧品にも含まれる。
実験は直径40ナノ・メートル(ナノは10億分の1)の酸化チタン粒子0・1ミリ・グラムを食塩水に混ぜて、妊娠中のマウスに4回皮下注射した。生後6週目の子どもを調べると、末梢の血管が詰まり、大脳皮質や海馬で細胞死が確認された。精巣にも異常が見られ、精子を作る能力が2割以上低下していた。
酸化チタンは世界保健機関が「発がん性の可能性がある」と指摘している。
国立医薬品食品衛生研究所の菅野純・毒性部長は「吸い込んだ場合でも同じような毒性があるか、確認が必要」と話している。
さまざまな組織や臓器になる万能細胞「胚性幹細胞(ES細胞)」で、実用化への課題だったがん化防止に、米ハーバード大研究員の八巻真理子・松本歯科大講師(幹細胞生物学)らがマウス実験で成功した。骨や皮膚に含まれるたんぱく質「コラーゲン」を使った。人工多能性幹細胞(iPS細胞)への適用も可能とみられ、再生医療実現に新たな道を開くと注目されそうだ。1日付の日本再生医療学会誌で発表する。
ES細胞やiPS細胞は、分化する過程で「テラトーマ」という腫瘍を作ることがある。このため、ES細胞やiPS細胞を特定の組織や臓器にして患者に移植する場合、がん化させない手法の開発が重要になっている。
研究チームは、ES細胞から立体的な細胞や臓器を作るのに使われる牛のコラーゲン製の人工素材で実験を重ねた。素材は無数の小さな穴が開いたスポンジ状構造をしている。
その結果、マウスのES細胞を増殖させた人工素材49個をマウスの腎臓に移植すると、約3カ月後までにがん化したのは2例だったが、ES細胞のみを移植した15例では100%がん化した。また、神経細胞になったES細胞で試しても、人工素材を使った場合は全くがん化しなかったが、使わないと6割以上でがんができた。高効率でがん化を抑えたのは初めてという。
抑制できた仕組みは未解明だが、皮膚や骨に多い1型という種類のコラーゲンで効果を発揮した。八巻講師は「このタイプのコラーゲンがES細胞と結合する際に何らかの腫瘍化抑制機能が働くのではないか」と話す。
てんかんの中で最も発症頻度が高い「若年性ミオクロニーてんかん」について、理化学研究所(理研)は1月16日、「若年性ミオクロニーてんかん」で変異が見られる遺伝子「EFHC1」を人工的に欠如させたマウス(ノックアウトマウス)を用いた研究で、「マウスが、てんかん患者と類似の症状と共に、てんかん発症の機序(メカニズム)に起因する特異な異常を示すことを見いだした」と発表した。理研では「遺伝子『EFHC1』の異常が、てんかん発症につながることをあらためて明らかにすると同時に、てんかん全体の発症メカニズムの理解や治療法の開発・改良などに大きく寄与する」としている。成果は、英国の科学雑誌「Human Molecular Genetics」のオンライン版に掲載された。
激しいけいれんなどが起きるてんかんは、世界の人口の約3%が一生に一度は発症する頻度が高い神経疾患で、その多くに遺伝的な背景があると指摘されている。8-20歳程度で発症する「若年性ミオクロニーてんかん」は、最も発症頻度の高いてんかんの一つになっている。
理研脳科学総合研究センターの神経遺伝研究チームは2004年、「若年性ミオクロニーてんかん」の患者で、「EFHC1」の変異が多く見られることを突き止めた。その後、「EFHC1」が、「若年性ミオクロニーてんかん」だけでなく、ほかの種類のてんかんの原因遺伝子でもあることが分かってきているが、「EFHC1」の変異が引き起こすてんかんのメカニズムを明らかにするモデル動物を対象にした研究報告はなかった。
同研究センターと大阪医科大、名古屋市立大などの共同チームは、「EFHC1」のノックアウトマウスを用いた初めての研究を進めた。その結果、ノックアウトマウスが、「ミオクロニー発作」を起こしたり、けいれん誘発剤に対する高い感受性など、てんかん患者と類似する症状を示したりすることが分かった。また、「脳室壁」の細胞の運動機能の低下など、幾つかの特異的な症状を表すことも明らかになった。
これらを踏まえ、理研では、「『EFHC1』の変異によって起きるてんかんの発症機構を理解することは、『若年性ミオクロニーてんかん』だけでなく、てんかん全体の発症メカニズムの理解にもつながる」などとしている。
患者数が国内だけで約300万人ともいわれるアレルギー性ぜんそくの引き金となる細胞と分子レベルの発症メカニズムを、理化学研究所の免疫制御研究グループがマウス実験で明らかにした。米専門誌(電子版)に発表した。
研究グループは、肺や気道などで免疫を担っている細胞で、遺伝子の発現パターンを網羅的に調査。その結果、免疫機構を制御するナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)の一部で、特定のタンパク質と結びつく遺伝子が顕著に発現していることを見つけた。
この遺伝子を持つNKT細胞に特定のタンパク質を加えると、アレルギーを引き起こす物質が大量に作られ、発症の引き金となっていることが判明。この細胞を持たないマウスや、特定タンパク質の抗体を投与したマウスでは発症しなかった。
さらに、NKT細胞を持たないマウスに、原因遺伝子も持ったNKT細胞を移入し直すと、ぜんそく症状を起こし、症状は細胞数に比例して悪化した。
研究グループによると、発症メカニズムはヒトもほぼ同じで「一部のNKT細胞の機能を抑えることで、アレルギー性ぜんそくを克服できる可能性がある」としている。
欠損すると筋ジストロフィーの原因になると考えられる新たなタンパク質を、京都大学薬学研究科の竹島浩教授(生化学)らの研究チームが発見、1日付の英科学誌「ネイチャー・セル・バイオロジー」(電子版)に発表した。発見により、筋ジスの新たな治療法の開発が期待できるという。
新発見のタンパク質は「ミツグミン53」(MG53)と呼ばれ、心筋や骨格筋の細胞に存在。MG53をつくる遺伝子を欠損したマウスは正常に生まれるが、次第に筋肉が萎縮する筋ジスと同じような症状が起きた。
実験の結果、MG53は損傷を受けた細胞の回りに集まり、細胞の修復に中心的な役割を果たしていることが判明。欠損マウスは修復力が落ちていた。
筋ジスの原因タンパク質としては「ジストロフィン」がよく知られているが、患者の約4割については原因タンパク質が特定されていない。研究チームは「原因不明の患者の遺伝子解析が進められ、MG53が原因物質と判明すれば、治療法の開発につながる」としている。
肺がん遺伝子が作る酵素の働きを抑える化合物で、マウスの肺がんを消失させることに、自治医科大などの研究チームが成功した。肺がんの新たな治療薬として期待される。25日、米科学アカデミー紀要(電子版)に掲載された。
チームは昨年、肺がん男性患者から、がん化にかかわる遺伝子「EML4−ALK」を発見。肺がん患者の約5%がこの遺伝子を持っていることが分かっている。
この遺伝子が肺がんを起こすことを確かめるため、肺だけで遺伝子が働くように操作したマウスを作ったところ、生後1〜2週間で両肺にがんができた。
さらに、この遺伝子が作る酵素の働きを阻害する化合物を作り、肺がんマウス10匹に1日1回経口投与した。投与開始から25日ですべてのマウスのがんが消失した。投与しなかった肺がんマウス10匹は、がんが両肺に広がり、9匹が1カ月以内に死んだ。
肺がんの治療薬としては「イレッサ」があるが、副作用がある上、効く患者が限られる。この化合物は別のタイプの肺がんへの効果が期待できるといい、既に複数の製薬会社が治療薬開発に着手している。間野博行・自治医科大教授は「投与したマウスの臓器や血液を調べたが、副作用はみられない」と話している。
肥満時に肝臓で作られるたんぱく質の働きを利用し、血糖値を下げるインスリンの分泌細胞を膵臓(すいぞう)で増殖させることに、東北大学の片桐秀樹教授(代謝学)らのチームがマウス実験で成功した。糖尿病の新たな治療法につながる成果と期待される。21日付の米科学誌サイエンスに掲載された。
インスリンは膵臓のベータ細胞から分泌される。チームは、肥満になるとベータ細胞が増えることに注目。肥満時に肝臓で作られるたんぱく質を増やす遺伝子を正常なマウスに導入したところ、膵臓でベータ細胞が急増した。糖尿病を発症させたマウスでもベータ細胞が増殖。導入しない糖尿病マウスに比べ、インスリン分泌量が約3倍になった。
また、肝臓から脳、膵臓へとつながる神経を切断して同じ実験をするとベータ細胞は増えなかった。チームは、肝臓が肥満状態を感知するとこのたんぱく質が作られ、信号が脳を経由して膵臓に伝わり、ベータ細胞を増殖させると考えている。片桐教授は「臓器間の神経ネットワークを使うことによって、ベータ細胞を増殖できた。将来、インスリン注射や移植が不要になるかもしれない」と話す。
アレルギー性ぜんそくなど気道過敏症の原因となる体内物質を作る細胞を、理化学研究所がマウス実験で突き止めた。ヒトにも同じメカニズムがあると考えられ、症状を抑えたり発症を予防する新薬の開発につながると期待される。17日付の米実験医学誌に発表した。
理研によると、国内のアレルギー性ぜんそくの患者は約300万人。慢性化すると、気管支拡張薬やステロイドなどを用いる対症療法が中心となり、根本的な治療法は確立していない。発作的なぜんそくや、せきを起こす直接の原因物質は分かっているが、これらがどの細胞で、どう作られるのかは不明だった。
研究チームは、マウスのさまざまな免疫細胞で遺伝子の働き具合を調べ、肺に多く分布するナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)にだけ出現するインターロイキン(IL)−17RBというたんぱく質に着目。人為的にNKT細胞を欠損させり、IL−17RBの働きを止めたマウスでは気道の炎症が起こらないことを確認し、IL−17RBを持ったNKT細胞が気道過敏症を引き起こす「悪玉細胞」だと結論づけた。
小児がんの一種で、治療が難しい神経芽腫の原因遺伝子を東大医学部の研究グループが発見した。この遺伝子がつくる酵素の働きを抑えることで、新たな治療法の開発が期待できるという。16日付の英科学誌「ネイチャー」(電子版)に発表した。
神経芽腫は4歳以下の患者が9割を占める乳幼児疾患。国内で年間約1000人が発症し、患者の約3割は治療が難しい。24年前に関連遺伝子が見つかったが、有効な治療法の開発には結びついていない。
研究グループは患者215人のゲノム(全遺伝情報)を分析。そのうち18人で、細胞の増殖にかかわる遺伝子が変異したり、通常の数十倍にコピーされて増えたりして、神経のもとになる細胞をがん化させ、神経芽腫を引き起こしたことを突き止めた。
詳しく調べたところ、この遺伝子がつくる酵素が異常に活性化していることが判明。酵素の働きを阻害すれば、治療が難しい患者の約3割で症状の改善が期待できるという。
小川誠司特任准教授は「この酵素は肺がんと関係があり、阻害剤の研究が進んでいる。神経芽腫の治療にも生かせるかもしれない」と話している。
さまざまな細胞に変化する可能性を持つ「人工多能性幹細胞」〈iPS細胞〉を、ウイルスを使わずに作ることに、山中伸弥・京都大教授らが、マウスの細胞を使った実験で成功した。従来は、ウイルスの一種「レトロウイルス」の使用が必要で、細胞に発がんなどの遺伝子異常をもたらす危険が指摘されてきた。ウイルスなしで作れたことで、今後iPS細胞から作った細胞を移植する際の、患者に対する安全性向上につながるとみられる。
10日、米科学誌『サイエンス』電子版に論文が掲載される。
iPS細胞を作るには、皮膚細胞など基になる細胞に4種類の遺伝子を導入する必要がある。従来はこの4遺伝子をレトロウイルスの内部に組み込み、ウイルスごと細胞に注入していた。このウイルスは、細胞が元々持っている遺伝子の集まり〈染色体〉に入り込む。この際に細胞の遺伝子に異常が生じ、がんなどが起きる心配があった。
山中教授と沖田圭介・京大助教らは、レトロウイルス(retrovirus)の代わりに大腸菌などが持つ環状の遺伝子「プラスミド」(plasmid)を使ってiPS細胞を作ることに成功した。プラスミドは一般に染色体内に入らず、遺伝子異常を起こす心配がないとされる。
4遺伝子のうち、細胞作成に欠かせない3遺伝子を一つのプラスミドに、作成効率を上げる1遺伝子を別のプラスミドに組み込んだ。これらをマウス胎児の皮膚細胞に4回に分けて注入すると、実験開始から25日目にiPS細胞ができた。染色体を調べ、外から遺伝子が入った形跡がないことを確認した。
今後はヒトの細胞で同様の方法でのiPS細胞作成を目指す。山中教授は「iPS細胞を患者の治療に使うために重要なワンステップだ」と話している。
BSE(牛海綿状脳症)の病原体である異常プリオンが、外部から感染しなくても、遺伝子の変異によって牛の体内で作られ、発症につながる例もあることが、米農務省国立動物病センターなどの研究で分かった。
研究したユルゲン・リヒト現カンザス州立大教授は「BSEがないと言われているどの国でも、この病気は発生しうる」と指摘、専門誌プロス・パソジェンズに11日発表した。
遺伝性のBSEが見つかったのは、米アラバマ州で2006年に発症した当時約10歳の雌牛。
牛肉の輸入再開をめぐる日米交渉が続く中、感染源が注目されたが、同省などの疫学調査では手がかりがつかめなかった。同センターで遺伝子を解析した結果、異常プリオンを作る変異が初めて見つかった。人間にも同じタイプの変異が知られ、遺伝性のクロイツフェルトヤコブ病(CJD)を引き起こすという。
鉄粉を混ぜて培養した細胞を、強力な磁石で骨の欠損部分に集めて骨や軟骨を再生する治療法を広島大学病院の越智光夫病院長(整形外科)の研究グループが開発した。体外に取り出した人の軟骨での再生実験に成功しており、臨床試験を経て、数年後の実用化を目指している。
越智氏らが開発した手法は、体内から取り出した骨髄細胞をもとに、骨や軟骨、筋肉などに変化する間葉系幹細胞を使う。MRI(核磁気共鳴画像装置)で造影剤として使われている鉄粉(直径10ナノメートル、ナノは10億分の1)と、特殊な薬剤を幹細胞の培養液に入れると、一晩で鉄粉を内側に取り込んだ幹細胞ができあがる。
この幹細胞を注入する際に、体外から強力な磁石を使って骨や軟骨の欠損部分に集める。定着した幹細胞は、3週間程度で軟骨や骨へと変化し、欠損部分を補ったという。磁石を当てる時間は欠損部分の大きさによるが、1〜6時間程度。
これまでにブタを使った動物実験のほか、人間から取り出した軟骨を使った実験でも、約1平方センチメートルの欠損部分を再生できた。鉄粉はやがて細胞から排出され、赤血球中で酸素を運ぶヘモグロビンに吸収されるという。
鉄粉や薬剤は、いずれもすでに医療現場で使われているもので、副作用の心配などは低いといい、広島大病院では、早期の臨床試験を目指している。
研究グループの1人、小林孝明医師は「注射と磁石を使うだけなので、手術に比べて患者の負担が小さく、何度でも繰り返し行うことができ、大きな効果が見込まれる」としている。
幹細胞を使った再生医療は国内外で研究が進んでいるが、再生させたい場所に幹細胞を定着させる技術や、幹細胞の変化を正しく導く手法に課題が残っている。
プラスチック製の食器などから溶け出す化学物質ビスフェノールA(BPA)によって、脳の神経組織の形成が妨げられることが、サルを使った米エール大などの実験で分かった。
米科学アカデミー紀要電子版で発表した。
ネズミでは知られていた現象だが、内分泌や脳の構造が異なる人間でも起きるのかどうか、安全性をめぐる議論の焦点となっていた。
異常が現れたのは、記憶や学習をつかさどる海馬などの、「スパイン」とよばれる構造。体内のホルモン「エストラジオール」の働きで形成が促進され、神経細胞同士の信号のやり取りに重要な役割を果たす。ところが、アフリカミドリザルにBPAを4週間与え続けた結果、エストラジオールの働きが妨げられ、領域によってはスパインの数が半分以下に減少した。
脳内で新しく作られる神経細胞が、空間を記憶するのに重要な役割を果たしていることを、京都大ウイルス研究所などのチームがマウスを使った実験で突き止めた。人間でも同様の働きがあるとみられ、新しい神経細胞を増やす薬を開発すれば記憶力低下を防止できる可能性があるという。31日の米科学誌ネイチャー・ニューロサイエンス(電子版)に発表した。
チームは、新しくできた神経細胞に色が付くようマウスの遺伝子を操作。観察の結果、餌がある場所など空間について記憶する「海馬」の一部で新しい神経細胞が作られ、1年間で総量が約15%増加したことが分かった。
一方、円卓に12の穴を開け、1カ所だけ下に箱を置いて場所を記憶させる実験では、正常なマウスは1週間後に位置を覚えていたのに対し、新しい神経細胞ができないよう操作したマウスは区別が付かなくなっていた。
人間でも、老化により新しい神経細胞ができにくくなることが知られている。メンバーの影山龍一郎・同研究所教授(分子生物学)は「新たな場所の記憶を保つ上で古い神経細胞は役に立たず、新たな神経細胞が必要なことを示せた」と話している。
ラットの脳細胞から出る電気信号によって、障害物を避けながら動くロボットの開発に成功したと、英レディング大が14日発表した。
ロボットは、人やコンピューターなどの助けなしで動いたという。
研究グループは、ラットの胎児から採取した脳細胞を培養して増やし、脳細胞が発する電気信号を検出できる装置に組み込んだ。二輪走行するロボットは、この電気信号を無線で受けて動く仕組みで、ロボットに積んだセンサーが障害物を検知すると、ロボット側から無線で送られる信号が脳細胞を刺激する。
ロボットは最初こそ障害物に接触していたが、障害物検知の信号で脳細胞が“学習”したとみられ、避けて動けるようになったという。
同大システム工学部のケビン・ワーウィック教授(自動制御学)は「培養した脳細胞が初めてロボットを操ったというだけでなく、脳が経験を蓄積して学習する仕組みの解明につながる成果だ」と話している。
視覚の情報を脳へ効率よく伝えるために必要なたんぱく質を、大阪バイオサイエンス研究所チームがマウスで発見した。
動体視力の優劣に関係しているとみられることから、素早い動きが特徴の人気アニメキャラクター「ピカチュウ」をもじって「ピカチュリン」と名付けられた。
網膜色素変性症などの治療につながる可能性がある。20日付の科学誌ネイチャー・ニューロサイエンス電子版で発表する。
古川貴久・第4研究部長らは、マウスを使って、光を感じる網膜の視細胞ができる際に働く遺伝子を解析し、ピカチュリンを発見した。視細胞から脳へ信号を送る神経への「つなぎ目」だけに存在するという。
ピカチュリン遺伝子を壊したマウスでは、正常なつなぎ目ができず、信号の伝達時間が約3倍かかった。速い動きに対する眼球の反応も遅くなり、動体視力にかかわっているらしい。古川部長は「イチロー選手のように動体視力に優れた一流の運動選手は、ピカチュリンの働きに違いがあるのかもしれない」と話している。
理化学研究所(理研)は7月14日までに、国内だけでも1000万人以上の患者がいると推定されている変形性関節症(OA)の原因遺伝子「DVWA」を発見した。理研を中心に杏林大、三重大、国立病院機構相模原病院、中国の南京大などとの国際共同研究による成果で、理研では「DVWAの発見によって分かったOA発症の新たな経路を詳しく調べることで、より正確な病態の理解が進み、新しいタイプのOA治療薬の開発が可能になる」としている。
OAは、関節の軟骨が変性したり、消失したりすることで、関節の痛みや機能の障害を起こす。骨や関節の関係では、最も発症頻度が高い疾患の一つで、有病率は年齢とともに増加し、70歳以上では30%以上の人がかかっているという統計もある。
このOAに関し、理研ゲノム医科学研究センターの骨関節疾患研究チーム(池川志郎チームリーダー)が、日本人特有のSNP(一塩基多型)をゲノム全体で調べたところ、あるSNPと膝の変形性関節症(膝OA)が強く相関していることが分かった。しかし、このSNP周辺のゲノム上には、既知の遺伝子が存在しなかったため、未知の遺伝子を捜した結果、軟骨に特異的に発現する新たな遺伝子を見つけ、DVWAと名付けた。
膝OAの日本人962人と、そうでない1726人を対象に解析した結果、DVWAが造るタンパク質に「反応する」あるSNPが膝OAに最も強い相関を示した。また、南京大の協力を得て、膝OAの中国人417人と、そうでない413人で同様の解析をしたところ、このSNPとの強い相関が示された。
さらに、DVWAの機能などを検討した結果、DVWAタンパク質が「チュブリン」という軟骨細胞の細胞骨格を構成するタンパク質と結合していることが判明。膝OAと強い相関を示すSNPによるDVWAタンパク質とチュブリンとの結合力への影響を調べたところ、OA患者に多いSNPに由来するDVWAタンパク質では、結合が低下することを突き止めた。
チュブリンの減少はOAにつながることから、DVWAは軟骨細胞の細胞骨格の制御を通じて、OAの病態に関与していると考えられるという。
卵子や精子のもとになる生殖細胞の誕生を制御する遺伝子を、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の斎藤通紀チームリーダー(38)らがマウスを使った実験で発見し、米専門誌「ネイチャー・ジェネティクス」の電子版に12日、発表した。生殖細胞ができる仕組みの全容解明につながり、不妊治療などに応用できる可能性があるという。
生殖細胞の起源となる「始原生殖細胞」に現れる遺伝子群を解明していたチームは、この遺伝子群のなかの「Prdm14」という遺伝子に注目。Prdm14を欠損させたマウスは、外見上は異常なく成長したものの、オス、メスとも精子や卵子ができなかった。
正常な始原生殖細胞は、体を構成するあらゆる細胞に分化する「多能性」を持つが、実験結果などから、Prdm14が多能性の獲得に不可欠な遺伝子であることも分かった。
生殖細胞の誕生にかかわる遺伝子については、チームが「Blimp1」と呼ばれる別の遺伝子を発見している。今回の研究で、生殖細胞が2つの遺伝子の影響を受けて誕生することが初めて明らかになった。
マウスの受精卵が着床するまでの数日間、自分自身のたんぱく質を分解して栄養にしていることを、東京医科歯科大のチームが発見した。魚や鳥と違い、ほとんど養分を持たない哺乳類の卵子の生き延び戦略を解明した成果で、体外受精の成功率向上などにつながる可能性もある。3日発行の米科学誌サイエンスに発表した。
ヒトをはじめ動物や植物の細胞には、飢餓時の栄養分の自給自足や細胞内の浄化のため、自分自身のたんぱく質を分解する「オートファジー」(自食作用)と呼ばれるリサイクル機能がある。出生直後や絶食時などに、全身の細胞で活発化することが知られていた。
水島昇・東京医科歯科大教授(分子細胞生物学)らは、生きた細胞でオートファジー(autophage)の様子を観察する新手法を開発。マウスの受精卵を凍結保存しようとした際、偶然、受精直後の卵子でもオートファジーが活発化することを見つけた。
オートファジーが働かない受精卵は、たんぱく質の合成量が通常の7割程度に落ち、生育できずに着床前に死んだ。哺乳類の卵子にはほとんど栄養分がなく、このリサイクル機能がなければ必要な器官を作る材料がなくなるためと考えられるという。
水島教授は「今後、オートファジーのような卵細胞内のたんぱく質の代謝機構が不妊に関係しているのかどうかを解明したい。体外受精卵の培養方法の改善などにつながる可能性もある」と話している。
一部の人々の体内では、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に対して驚くほどの抵抗力がつく突然変異が起きている。そして研究者たちは、そのような抵抗力を誰にでも持たせるための方法をついに見つけたのかもしれない。
ウイルスは細胞に入り込んで乗っ取るが、細胞に入り込むには手がかりが必要だ。HIVは、T細胞の表面を覆っている、CCR5と呼ばれるタンパク質を手がかりにして侵入する(T細胞は主要な2種類の白血球細胞のうちの1つで、身体がウイルスと戦うのを助ける重要な役割を担っている)。
1990年代に、不特定多数の相手と性的な関係を持ち、HIV陽性の相手と関係があったにもかかわらず感染しなかった少数の同性愛の男性たちが、科学者たちの関心を引いた。彼らのほとんどに、細胞が通常のCCR5タンパク質を作らないようになる突然変異が起きていた。
この知識を得た科学者たちは、CCR5の産生を妨害するか、CCR5の形を変えることにより、HIVが乗っ取りを試みる最初の段階でCCR5を手がかりにできなくする方法をいくつか開発した。このやり方は、レスリングの試合前に髪の毛を切るのとよく似ている。相手がつかめる部分を1つ減らすというわけだ。
ペンシルベニア大学のCarl June教授らのチームが開発した最新の防御策は、『ジンク・フィンガー・ヌクレアーゼ』と呼ばれる高度に操作されたタンパク質を使い、一部のT細胞からCCR5の遺伝子を取り去るというものだ。
これにより、T細胞はCCR5を作り出す方法を失い、HIVが入り込むのはほぼ不可能になる。June教授の論文は、6月29日(米国時間)に『Nature Biotechnology』のウェブサイトで発表された。
June教授が行なったテストは、ヒトではなくマウスを対象にして、培養したT細胞を使っているため、手放しで喜ぶのはまだ早い。この手法がヒトでもうまく機能するかどうか明らかになっていないからだ。
理論の上では、AIDS専門医が、感染者からT細胞をいくつか取り出し、遺伝子に手を加え、再び患者の体内に戻す、という手法が考えられる。体内に戻された抵抗力のあるT細胞は、ウイルスをものともせず盛んに増殖し、勢力を伸ばす。この方法で体内のウイルスを取り除くことはできないが、AIDS患者のT細胞の数を維持することで、二次感染に対する抵抗力や健康を保つ能力が高まるはずだ。
人など脊椎(せきつい)動物の祖先は、これまで考えられていたホヤ類ではなく、ナメクジウオの仲間であることを、日米英など国際チームが突き止めた。ナメクジウオの全遺伝情報(ゲノム)を解読し、ヒト、ホヤなどと比較したもので、成果は19日付の科学誌ネイチャーに掲載される。
哺乳(ほにゅう)類や魚類など背骨を持つ脊椎動物は、5億2000万年以上前に、背骨の原形である棒状組織「脊索(せきさく)」を持つ脊索動物から進化したと考えられている。脊索動物には脊索が尾側にある尾索動物のホヤ類と、頭部から尾部まである頭索動物のナメクジウオ類があるが、詳しい進化の過程は分からなかった。
研究チームは、約5億個の化学物質(塩基)からなるナメクジウオのゲノムを解読、約2万1600個の遺伝子を発見した。すでにゲノム解読されているホヤ、ヒトと比較した結果、脊索動物の中でナメクジウオが最も原始的であることがわかった。
これは、脊椎動物がナメクジウオ類から直接進化したことを裏付けるもので、ホヤ類を祖先と見る従来の説を覆す結果となった。
研究リーダーの一人である京都大学の佐藤矩行教授(動物学)は「ダーウィン以来の懸案だった脊椎動物の起源が初めてはっきりした」と話している。
細胞が卵子や精子(生殖細胞)になるのに必要な遺伝子の働きを、理化学研究所(神戸市)の斎藤通紀(みちのり)・哺乳(ほにゅう)類生殖細胞研究チームリーダーと栗本一基特別研究員らがマウスの細胞を使った実験で解明した。この遺伝子は細胞が一般的な細胞(体細胞)に変化するのを防ぐブレーキ役をしていた。さらに、生殖細胞にとって重要な、どんな細胞にも変化できる能力(多能性)の維持に関係していた。
15日付の米科学誌「ジーンズ・アンド・デベロップメント」に論文が掲載される。
斎藤さんらは、生殖細胞形成に重要だとみられた遺伝子「Blimp1」を、人為的に欠損させた受精卵を作り、正常な受精卵と比べた。
その結果、正常な受精卵は受精後6〜8日で、一部の細胞が生殖細胞に向かって変化し始めた。
一方、Blimp1のない受精卵では、生殖細胞になるはずの細胞で、皮膚や骨などの基になる体細胞への変化を促す遺伝子が次々と働き出した。多能性維持に重要な別の遺伝子「Sox2」は働かなかった。
Sox2は、京都大の山中伸弥教授らがつくった人工多能性幹細胞(iPS細胞)に必要な遺伝子の一つ。斎藤さんは「Blimp1はヒトにもある。何らかの共通の働きをしている可能性がある」と話している。
膵臓に3種類の遺伝子を入れるだけで、血糖値を下げるインスリンを分泌するベータ細胞を作り出すことに、米ハーバード大のダグラス・メルトン教授らのグループがマウスの実験で成功した。
11日、当地で始まった国際幹細胞研究学会で発表した。様々な組織の細胞に変化する胚性幹細胞(ES細胞)や新型万能細胞(iPS細胞)を使わずに簡単につくることができ、ベータ細胞が破壊され、インスリンを作れない1型糖尿病の治療への応用が期待される。
メルトン教授らは、遺伝子操作でベータ細胞を作れないようにしたマウスの膵臓に、ウイルスを運び役にして膵臓に関連した遺伝子を注入。1100種類を試し、受精卵から膵臓ができる過程で働いている3遺伝子がベータ細胞を効率よく作るのに欠かせないことを突き止めた。
たばこと肺癌の関係はよく知られているが、酒を飲む量が多いとさらに発症リスクが高まることが30日までに、厚生労働省研究班(主任研究者・津金昌一郎国立がんセンター部長)の大規模疫学調査で分かった。非喫煙者ではこうした関係がみられなかった。
飲酒と肺癌については多くの研究があるが、たばこの影響が大きいため、はっきりした結果は得られていない。
研究班は1990年と93年、東北から沖縄まで全国10地域で、40〜69歳の男性約4万6000人の生活習慣などを調査。2004年まで追跡し、この間に651人が肺癌になった。
飲酒量で「飲まない」「時々飲む(月1〜3回)」と、1日当たり「1合未満」「1〜2合」「2〜3合」「3合以上」に分け、喫煙者と非喫煙者を別々に解析。喫煙者では、飲む量が多いほど肺癌発症率が高くなる傾向があり、「2〜3合」「3合以上」では時々飲む人の1.7倍だった。
ビタミンB群を食事で多く取る人は心筋梗塞になりにくいことが27日までに、厚生労働省研究班(主任研究者=津金昌一郎国立がんセンター部長)の大規模疫学調査で分かった。どれか1つだけでは効果がなかった。
研究班は1990年と95年、岩手、秋田、長野、沖縄の4地域で、40〜59歳の男女約4万人の生活習慣を調査。約11年の追跡期間に、男性201人、女性50人の計251人が心筋梗塞などの虚血性心疾患になった。
食事内容からビタミンB6、B12、葉酸の摂取量を算出してそれぞれ5群に分け、喫煙や肥満、ビタミン剤摂取などの影響を除いて発症リスクを比較。その結果、いずれも摂取量が多いとリスクが低い傾向がみられた。
心筋梗塞に限るとより顕著で、最も少ないグループに比べ、最も多いグループは葉酸で約4割、B6、B12で約5割低かった。
また、摂取量が多いか少ないかの組み合わせでも検討。3つすべて少ない人は、すべて多い人の2倍以上のリスクだった。1つだけ多くても他の2つが少なければ同様に高リスクで、特にB6が少ないと、B12と葉酸が多くても2倍以上だった。
研究班は、これらを満遍なく、特にB6を多く含む食品を積極的に取ることが、心筋梗塞の予防につながる可能性があるとしている。
血管の疾患などに関与しているたんぱく質が、筋肉のエネルギー消費を調節する働きを持っていることを、東大循環器内科の永井良三教授らのグループが突き止めた。別の小さなたんぱく質との結合・分離によってスイッチを切り替えるように調節することも分かり、25日付の米医学誌ネイチャー・メディシン電子版に発表した。
こうしたメカニズムが明らかになったのは初めて。研究グループは「肥満やメタボリックシンドロームの新たな治療薬開発につながる」としている。
「KLF5」と呼ばれるこのたんぱく質は、さまざまな遺伝子の機能を調節しており、これまでに血管や心臓の疾患、がんなどへの関与が知られている。
DNAの並び方に1か所違いがあると、胃癌になる危険性が約4倍高まることが、国立がんセンターの吉田輝彦部長らの研究で分かった。
この違いは、胃で働くたんぱく質の量に関連しているとみられる。胃癌発症の仕組み解明に役立つとともに、リスクの高い人が喫煙を控えることなどで、予防につながると期待される。ネイチャー・ジェネティクス電子版に19日発表する。
遺伝情報が収められているDNAは、4種類の塩基が対になって並んでいて、時折、人によって異なる並び方が現れる。吉田部長らは、こうした塩基配列の個人差を約9万か所選び、胃癌の半数を占める未分化型胃腺がんの患者188人について、病気でない752人と比較した。
その結果、ある1か所の違いが、発がんリスクを4.2倍高めることが分かった。韓国人を対象にした研究でも、約3.6倍と同様の結果が得られた。
日本人の約6割が、リスクの高い並び方になっているという。
脂っこい食事を不規則に取る生活を続けると、コレステロールの代謝を担う肝臓の「体内時計」が異常となり、同じ食事内容でも規則正しく取った場合に比べ、血中コレステロール濃度が大幅に上がる可能性が高いことが分かった。名古屋大大学院生命農学研究科の小田裕昭准教授らがラットの実験で確認し、5日までに日本農芸化学会で発表した。
この研究は、「規則正しい食生活をしないと不健康になる」メカニズムの解明が目的。小田准教授は「頭の睡眠リズムは日光の影響が大きいが、身体は食事に合わせようとする。交代制勤務などの場合でも、1日3、4回、できるだけ普段と同じ時間に食事した方がいいのでは」と話している。
研究チームは、コレステロールが高くなるよう配合した餌を、6匹ずつ2グループのラット(夜行性)に与えた。いつでも食べられる状態にしたグループは、主に夜になって起きたときと、明るくなって寝る前の2回、餌を食べた。別のグループには、同じ内容と量の餌を4分の1ずつに分け、昼夜を通して6時間ごとに与えた。
その結果、昼夜構わず餌を食べることになったラットは、肝臓からのコレステロール放出量が増え、血中濃度が100ミリリットル当たり約200ミリグラムから約270ミリグラムと、1.3倍上昇。肝臓でコレステロールが代謝されると胆汁酸として排出されるが、ふんに含まれる量も減っていた。
がん細胞の転移は、生命活動に必要なエネルギーを合成する働きを持つミトコンドリアDNAの突然変異が原因の一つであることを、島根大医学部生命科学講座の本間良夫教授らの研究グループが発見し、4日、米科学誌サイエンス電子版に発表した。転移のメカニズムが解明されたことで、がんを抑制する効果的な治療法の開発につながると期待されている。
千葉県がんセンター、筑波大との共同研究で、マウスのがん細胞を使用して実験。転移能力の高いものと低いものの2種類のがん細胞を用意し、双方の核DNAとミトコンドリアDNAを交換した。するとできた細胞の転移能力は、ミトコンドリアDNAがもともとあった細胞の転移能力と一致。転移のしやすさは、核DNAではなく、ミトコンドリアDNAに左右されることが判明した。
ヒトの乳がんと子宮頸がんの細胞を使った実験でも、同じ仕組みを確認した。
さらにマウス実験では、ミトコンドリアDNAの塩基配列を解析。ミトコンドリアDNAが突然変異を起こすとエネルギー合成力が低下して活性酸素の産出量が増加。この活性酸素が核DNAに影響し、転移能力の獲得につながっていた。
また抗酸化剤処理で活性酸素量を抑制すると転移能力が抑制されることも突きとめた。今後島根大を中心にヒトのがん細胞での検証を進め、がんが転移する可能性の診断法や転移能力獲得を抑制する方法を研究する。本間教授は「この発見はがんの転移をコントロールする大きな手がかり。検証を重ねれば新たながん治療法の開発につながる」としている。
肺癌を発症しやすい体質かどうかに影響する遺伝子の個人差を発見したと、欧米の3研究チームが3日付の英科学誌ネイチャーなどに発表した。このうち、政府が国民の全遺伝情報(ゲノム)調査に積極的なアイスランドの医薬品会社ディコード・ジェネティクスを中心とするチームは「この個人差が喫煙量とニコチン依存度にも関係する」と指摘。研究成果は肺癌の早期診断や新たな禁煙補助剤の開発に役立つと期待される。
いずれも肺癌患者と健康な人を比較したり、喫煙者とたばこを吸ったことがない人を比べたりする調査を行った。しかし、喫煙量との関係については、米テキサス大などのチームは弱いとし、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)などのチームは認めなかった。さらに大規模な調査での解明が望まれる。
この個人差は15番染色体の「長腕」と呼ばれる部分にあり、肺胞などにあるたんぱく質「ニコチン性アセチルコリン受容体」を構成する「CHRNA3」などの遺伝子がかかわる。2カ所のDNA塩基の種類が、肺癌患者では特定のタイプである割合が高かった。
ディコード社などのチームは、アイスランド国民約5万人にたばこを吸う本数を質問し、このうち喫煙者約1万1000人のゲノムを解析。その結果、ヘビースモーカーでは、15番染色体長腕の特定位置の塩基が「グアニン」より「チミン」である割合が高いと分かった。さらにオランダとスペインを加えた3カ国で肺癌患者約1000人と健康な人約3万2000人を調査したところ、チミンの場合は発症リスクが3割高かった。
血中の総コレステロール値が低い人は死亡リスクが高いことが28日までに、浜崎智仁富山大教授、大櫛陽一東海大教授らの研究で分かった。特に男性の場合、総コレステロール値が高いほどリスクが低くなる傾向がみられた。
大櫛教授らの別の疫学調査では、「悪玉」とされるLDLコレステロールで同様の傾向がみられた。
4月から始まる特定健診では、LDLが一定値以上だと受診勧奨となるが、浜崎教授は「コレステロールを悪者にする説はもともと米国から来たもの。米国は心臓疾患や肥満が多く、体質が違う。不必要な人まで薬物治療の対象になる」と懸念している。
同教授らは、コレステロールと死亡率に関する国内の疫学調査を検索し、「5000人以上を5年以上追跡」などの条件で5本の文献に絞り込み、延べ約17万3500人分を「メタ分析」という手法で解析した。
電気製品などへの応用が期待される筒状の炭素ナノ材料「カーボンナノチューブ」を投与したマウスに中皮腫ができたことを、国立医薬品食品衛生研究所などが確認した。厚生労働省はナノ材料の安全対策や製造現場での予防策について報告書をまとめる方針。
カーボンナノチューブは、発がん物質のアスベストと形状が似ていると指摘されている。ただ、アスベストをマウスに吸入させる実験では中皮腫が発生しにくいため、研究チームは腹腔(ふくくう)内に注射する方法を採用した。
発がん性をより早く調べるため、がん抑制遺伝子「p53」を欠失させたマウス(生後9〜11週)を4群に分け、粒径が平均約100ナノメートル(ナノは10億分の1)で長さの異なるカーボンナノチューブ、アスベスト(青石綿)、炭素ナノ材料で球形の「フラーレン」、何も含まない溶液を注射。カーボンナノチューブについては、長さが5マイクロメートル以上のものの影響を観察した。
カーボンナノチューブ群では、84日目に初めて腹腔内に中皮腫が見つかり、その後の180日間で16匹中14匹にできた。青石綿でも18匹中14匹で見つかったが、フラーレンと溶液の群では腫瘍(しゅよう)は見られなかった。
腫瘍の近くにはカーボンナノチューブや青石綿が沈着。研究チームはカーボンナノチューブの細長い形状やマウス体内での分解しにくさなどが影響したと分析した。東京都健康安全研究センターも正常ラットで実験し、同様の結果を得た。
同研究所の菅野純・毒性部長(毒性学・病理学)は「今後の製品開発では、労働者が工場内で吸い込むことなどがないよう、大量生産前の現在の段階から予防策をとることが重要だ」と指摘する。
アルツハイマー病に関与するたんぱく質の一つが、老化に伴う記憶障害の原因になっていることを、理化学研究所の高島明彦アルツハイマー病研究チームリーダーらがマウスを使った実験で確認し、15日付の学会誌に発表した。このたんぱく質が脳内に蓄積すると、アルツハイマー病の原因になる神経細胞の変質(神経原線維変化)をもたらすが、早期に発見できれば、発症予防が期待できるという。
人間の脳は老化に伴い、記憶の形成にかかわる嗅内野(きゅうないや)という部位に「過剰リン酸化タウたんぱく質」が蓄積し、神経原線維変化が発生。その後「ベータアミロイド(Aβ)」と呼ばれる別のたんぱく質により脳の広い部位に神経原線維変化が拡大、アルツハイマー病に至る。
研究チームは、ヒトのタウたんぱく質を作るマウス(タウマウス)を遺伝子操作でつくった。学習、記憶行動と神経細胞の活動を調べたところ、若いタウマウスでは通常のマウスとの違いはなかったが、老齢では嗅内野の神経原線維変化が起きていなくても、記憶能力が極端に低下していた。
老齢タウマウスの嗅内野を詳しく調べると、神経細胞同士のつながり(シナプス)の減少が判明。タウたんぱく質が神経原線維変化とは別に、シナプスを減少させて記憶障害を起こしていることが分かった。
神経原線維変化は元に戻せないが、タウたんぱく質は薬剤で害を与えない状態に変化させることができるため、早期の発見により、記憶障害の改善やアルツハイマー病への進行を防げる可能性があるという。
アカゲザルの体細胞と卵子から作ったクローン胚(はい)を使い、さまざまな細胞に分化する能力を持った胚性幹細胞(ES細胞)を作成することに、米国のオレゴン国立霊長類研究センターなどの研究チームが成功し、14日付の英科学誌「ネイチャー」電子版に発表した。霊長類のクローン胚からES細胞が作られたのは世界で初めて。ヒトでの再生医療、難病治療などへつながる成果として注目を集めそうだ。
研究チームは、アカゲザルの卵子の核を取り除き、そこへ体細胞(線維芽細胞)の核を移植してクローン胚を作った。304個の卵子から、最終的に2個がES細胞に成長。神経細胞などに分化させることができ、ES細胞の特徴を備えていることを確認した。
これまで哺乳(ほにゅう)類では、マウスでクローン胚由来のES細胞が作られていた。霊長類では、04〜05年に韓国・ソウル大の黄禹錫(ファンウソク)教授(当時)らの研究チームがヒトの体細胞を使って作成に成功したとの論文を発表したが、後に捏造(ねつぞう)が明らかになった。
しかし、この騒動によってサルなどヒト以外の霊長類でのES細胞作りが注目された。国内でもカニクイザルを使った研究でクローン胚を作り、基になる胚盤胞までは完成していたが、ES細胞には成長させられていなかった。
ヒトのクローン胚からES細胞ができれば、その人と同じ遺伝情報を持つ臓器・組織を作り出せるため、拒絶反応のない再生医療の切り札になると期待されている。
医薬基盤研究所霊長類医科学研究センターの山海直・主任研究員は「黄教授の論文捏造発覚以降、各国のチームがサルでのクローン胚由来ES細胞作りに取り組んでいた。日本のチームも作成を目指していたので残念だ。大きなブレークスルーで、再生医療への期待は高まるが、ヒトでの応用にはまだ時間が必要だ」と話している。
体内の“掃除屋”細胞と言われる「マクロファージ」が不要になった細胞を取り除く際、アレルギーなど免疫にかかわるたんぱく質がセンサーのように要不要を見分けていることを、京都大医学研究科の長田重一教授らが突き止めた。ぜんそくやアレルギー、アトピーなど自己免疫疾患の解明や治療法の開発に役立つ成果という。25日付の英科学誌ネイチャーに発表された。
古くなり不要になった細胞が死ぬと、有害な物質が放たれて周囲に炎症が起きないように、マクロファージが細胞を丸ごと取り込んで分解する。死んだ細胞の表面にリン脂質の物質が現れるが、マクロファージがどのように目印を見分けるかは未解明の部分が多かった。
マクロファージの表面にあり、この目印と結合するたんぱく質を探したところ、免疫にかかわる「Tim1」と「Tim4」が当てはまると判明。これらを抗体で働けなくすると、マクロファージは細胞を取り込めなくなり、Timたんぱく質が死細胞を取り除くために必要だと分かった。
研究グループの大阪大医学系研究科、内山安男教授は「マクロファージがうまく掃除できないことと、自己免疫疾患など免疫の病気が関係すると分かった。治療法を考えるうえで重要な発見だ」と話している。
腰痛や座骨神経痛を招く椎間板ヘルニアの原因遺伝子の一つを、理化学研究所と慶応大、富山大、京都府立医科大の研究チームが7日までに発見した。この遺伝子のDNA塩基配列が特定のタイプの場合、そうでない人に比べて約1.4倍、発症しやすくなる。研究成果は発症の仕組みの解明や新薬開発に役立つと期待される。
この遺伝子は、軟骨組織だけにある「11型コラーゲン」を生み出す遺伝子の一つで、「COL11A1」と呼ばれる。日本人の椎間板ヘルニア患者の協力を得て、この遺伝子のDNA塩基配列を調べたところ、特定の部位の塩基の種類がチミンの人は、シトシンの人に比べ、11型コラーゲンを生み出す働きが3分の2程度に低下し、約1.4倍発症しやすくなることが分かった。
シベリア北部の永久凍土から発掘された1万2000年前から5万年前のマンモス10頭の毛から、細胞小器官ミトコンドリアのDNAを抽出し、高い精度で解読することに成功したと、米ペンシルベニア州立大などの国際研究チームが28日付の米科学誌サイエンスに発表した。
従来の骨や筋肉からDNAを抽出する方法に比べ、毛は周囲が硬いケラチンに包まれ、細菌などのDNAの混入が少なく、劣化が進んでいないのが特徴。絶滅した動物の他の種との関係や進化過程をより正確に解明できるほか、DNA解析の対象がこれまでに成功したマンモスやマストドン、飛べない巨鳥モアなど以外にも広がると期待される。
米保険大手カイザー・パーマネンテが27日発表した調査結果によると、女性が毎日飲酒した場合、乳がんになるリスクが拡大する傾向が確認された。酒の種類を問わず、健康に良いとされる赤ワインでも発生率が高まった。
調査は約7万人(うち2829人が乳がん発病)を対象に実施。ワインなどを毎日3杯以上飲む女性の乳がん発生率は、ほとんど飲まない女性より30%高かった。同社研究員は「毎日3杯以上の飲酒が乳がん発生率拡大につながるのは、毎日1箱以上の喫煙が肺癌発生率拡大につながるのと似た関係にある」と警告した。
毎日1、2杯飲酒する女性の乳がん発生率も10%高かったため、家族に乳がん患者がいる場合などは飲酒習慣に注意が必要だと助言した。
飲酒と乳がんリスクの関連性は指摘されてきたが、血圧低下などの効果がある赤ワインは例外との意見もあった。しかし、今回の大規模調査で、赤ワインやビール、ウイスキーの間に違いはなく、アルコール摂取量が発がん率を左右する傾向が分かった。ただ、リスクを高める原因は未解明という。
千葉大学大学院医学研究院の落合武徳前教授を中心とする研究グループが、医学生物学研究所(名古屋市)と共同で、血液検査で早期がんを発見できる新たな診断法を開発した。厚生労働省は食道がん、大腸がん、乳がんについてこの診断法を使った検査薬を承認し、今月、検査薬が発売された。年内にも保険が適用される見込みで、人間ドックなどでの普及が期待されている。
C型肝炎ウイルス(HCV)が細胞内で増えていく仕組みを、下遠野邦忠・京都大名誉教授(現慶応大教授)らのチームが初めて解明した。HCVが持つたんぱく質が、細胞内にある脂肪の塊「脂肪滴」を利用して新たなウイルスを作っていることが分かった。肝臓に脂肪が増えるとHCVも増えるため、下遠野名誉教授は「余分な脂肪滴の蓄積を防ぐ薬剤ができれば、HCVが原因の肝疾患の進行を抑制することが期待できる」と話している。
HCVに感染すると、高い確率で慢性肝炎や肝硬変などになる。肝臓がんで死亡した人の約8割が感染しているといい、感染すると肝臓に脂肪がたまりやすくなる傾向があることも分かっていた。チームは、培養した肝細胞にHCVを感染させ、ウイルス形成の仕組みを調べた。
HCVは、自らが持つ10種類のウイルスたんぱく質のうち「コア」と呼ばれるたんぱく質が、水と結合しにくい性質を利用して脂肪滴に近づき、脂肪滴の膜に張り付く。他のウイルスたんぱく質はそこに引き寄せられ、脂肪滴の周辺で新たなウイルスを作っていた。ウイルス形成の足場として、脂肪滴が使われているとみられる。
成果は肝臓脂肪症の仕組みの解明や、コアが脂肪滴に近付くのを防ぐ薬剤の開発など、HCVの新治療につながるという。研究結果は26日(ロンドン時間)、科学誌「ネイチャー・セル・バイオロジー」電子版に掲載された。
世界保健機関(WHO)は23日、2007年の「世界健康報告」を発表、1967年以降、毎年1種類のペースで未知の病気が発生しており、一世代前には存在しなかった病気が少なくとも39種類見つかったことを明らかにした。
同報告によれば、これらの新種の病気は、新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)や鳥インフルエンザ、エボラ出血熱、エイズウイルス(HIV)など。
また、同報告はグローバル化に伴い人やモノの移動が激増する中、世界各地で過去5年間、約1100件の伝染病の流行があったことも指摘した。
既存の疾患が抗生物質への耐性を強める傾向もある。WHOは特に、既存の薬が効きにくいタイプの結核の流行を懸念している。
ウイルスや細菌などの病原体が、口や鼻から感染するのを防ぐ機能を高める新しい乳酸菌を発見したと、熊本県立大と大塚製薬の共同研究グループが14日、札幌市で開かれた日本消化器関連学会で発表した。
かぜやインフルエンザなどの予防対策に利用が期待される。
南久則・同大教授らの研究グループは、様々な乳酸菌をマウスに飲ませて、気道などの粘膜上で病原体の感染を防ぐ免疫物質の分泌量を調べた。その結果、ある種の発酵茶から採取した乳酸菌を飲ませると、IgAという免疫たんぱく質の分泌量が、飲ませなかったマウスよりも約6倍増えた。その乳酸菌を、健康な20歳代の被験者7人に21日間飲ませて、唾液(だえき)に分泌されるIgAの量を調べたところ、摂取前よりも明らかに分泌量が増えていた。
重症の未熟児網膜症の新生児に対し、病状が悪化する早期に眼球手術を行い、8割以上で失明を回避することに、国立成育医療センター(東京都世田谷区)の治療チームが成功した。
失明の原因となる網膜剥離(はくり)を防ぐ手法で、日常生活に困らない視力が望めるなど治療効果が生まれている。
未熟児網膜症は、光を感知する網膜を養う血管が十分に成長せずに生まれ、その血管が、目の奥にある硝子体で増殖、収縮し眼球組織に変性を起こす病気。網膜剥離で失明することも多く、特に、血管増殖が約1週間で一気に進む重症タイプは、ほぼ全員に重い視力障害が残る。年間約1000例に及ぶ小児の失明原因の30〜40%がこの病気だ。
皮膚や髪を作る細胞にメラニン色素が輸送されるのを妨げる酵素を、理化学研究所と東北大の共同研究グループが見つけた。メラニン色素は紫外線で遺伝子が傷つくのを防ぐが、しみやそばかすの原因にもなる。輸送を妨害して肌の美白を保ったり、促進して白髪を減らす方法の開発に役立ちそうだ。米国の生化学専門誌(電子版)に、論文が掲載される。
メラニン色素は、皮膚に紫外線が当たると表皮の内側の細胞で合成され、膜に包まれた袋に蓄積される。この袋が、皮膚や髪を作る別の細胞に輸送されると肌や髪が黒くなる。
研究グループの福田光則・東北大教授らは2年前、「Rab27A」と呼ばれるたんぱく質が輸送に不可欠なことを解明した。「Rab27A」は、働いて輸送を促す場合と働きを失う場合を繰り返し、輸送を正常に保っていると考えられたが、仕組みは分からなかった。
グループは今回、たんぱく質の働きを失わせる可能性があると考えられた酵素40種類を、マウスの培養細胞に1種類ずつ加えて実験した。
すると、ある一つの酵素を加えた場合には、メラニン入りの袋が細胞の中心部から広がらなくなった。袋は通常、中心付近で作られて周辺に輸送されるが、酵素が輸送を妨げたとみられる。グループは酵素を「Rab27A―GAP」と名付けた。
福田教授は「今回の酵素は、人間でもメラニンの輸送を妨げるとみられる。輸送を促進する酵素も見つけたい」と話している。
理化学研究所と大阪大学の研究チームは、細胞内において、亜鉛の濃度変化が、病原菌などから体を守る仕組みにかかわる免疫応答をコントロールするシグナルとして使われていることを発見した。亜鉛濃度によって情報を伝えるしくみの発見が生命科学全般に新しい発見を促す可能性もある。
亜鉛は、体に不可欠な微量金属の一つで、欠乏すると免疫不全や味覚障害などの異常が生じることが知られていた。しかし、カルシウムのように、濃度変化が細胞内のシグナル伝達にかかわっていることは知られていなかった。
体内では、「樹状細胞」と呼ばれる免疫細胞が、一度侵入した病原菌などの異物の断片を蓄積しておき、同じ種類の異物を見つけると成熟・活性化して、異物を攻撃する細胞である「T細胞」に病原菌など相手の特徴と断片を教えると、攻撃的になってやっつけにいく。
研究グループは、樹状細胞のセンサー部である「トール様受容体(TLR)」が刺激されてから、樹状細胞が成熟・活性化する過程において、細胞中の亜鉛濃度を蛍光標識を使って調べた。
その結果、樹状細胞の成熟に伴って細胞内亜鉛レベルが減少していた。また、細胞内の亜鉛濃度をわざと下げてやると、TLRの刺激をしなくても樹状細胞が活発になって、T細胞も攻撃的になった。
さらに、亜鉛濃度の調整には、樹状細胞内で亜鉛を運搬する役目をもつ「亜鉛トランスポーター」が関与していることも突き止めた。
この成果は、米科学誌ネイチャー・イムノロジー(免疫学)のオンライン版に日本時間の7日、掲載される。
先進諸国で失明の主因とされる加齢黄斑変性の原因は活性酸素とするマウスでの実験結果を、慶応大の坪田一男教授(眼科学)らが11日、米科学アカデミー紀要(電子版)に発表した。
加齢黄斑変性は、網膜の中心部の黄斑という部分が加齢とともに異常を起こし、視力が低下する病気。
活性酸素が原因という仮説を裏付ける結果で、研究グループの今村裕講師は「体内の活性酸素の過剰生産を制御するなど、より根本的な治療が考えられるのではないか」と話している。
加齢黄斑変性は通常のマウスにはみられないが、活性酸素を除去する酵素が作れないよう遺伝子操作した生後10カ月以上のマウスでは、約86%に現れた。
牛海綿状脳症(BSE)の牛を食べて発病するとされる変異型クロイツフェルト・ヤコブ病は、感染から発病までの潜伏期間が、長い人で50年を超す可能性があるとの推定を、英ロンドン大などのチームがまとめ、24日付の英医学誌ランセットに発表した。
従来は長くて20年程度との推定もあったが、チームは長期的な監視が重要と訴えている。
根拠は、BSEやヤコブ病と同様に異常プリオンが原因とされるクールー病。死者への敬意を表す手段として人の脳を食べる習慣があったパプアニューギニアの一部に残る疾患で、潜伏期間は平均12年とされてきた。
脊髄などの中枢神経系が損傷して、約1週間後に損傷部位に集まる細胞「アストログリア」に、神経細胞の損傷拡大を防ぐ働きのあることを慶応大医学部の岡野栄之教授や中村雅也講師らがマウスを使った実験で突き止めた。
アストログリアの集積を早期に促すことで脊髄損傷を抑える新たな治療法につながると期待される。19日の医学誌ネイチャーメディシン電子版に発表する。
中枢神経系が損傷すると、炎症が広がったり、細胞の“自殺”が起きたりして損傷部位は拡大する。
約1週間が経過すると、アストログリアが損傷部に集まることが知られていたが、その機能は不明だった。
眠りを引き起こす働きが知られるホルモンの一種「プロスタグランジンD2」(PGD2)の受け皿となる脳表面のたんぱく質(受容体)を作用させなくすると、睡眠時間が短くなることを、大阪バイオサイエンス研究所(大阪府吹田市)の研究グループがラットを使った実験で確認した。居眠り防止薬の開発にもつながる成果だとして、18日から京都市で開かれる国際生化学・分子生物学会議で発表する。
PGD2は、脳の周囲を覆うくも膜から分泌され、くも膜と脳の間を流れる脳脊髄(せきずい)液中に微量に存在する。研究グループはこれまでに、PGD2をラットの脳に投与すると、受容体からアデノシンという神経伝達物質が発生し、それが睡眠を誘発することを突き止めている。しかしどうすれば睡眠を抑制できるかは確かめられていなかった。
実験では、脳のうち受容体が集中して存在する「前脳基底部」という部位に、受容体を作用させなくする薬の水溶液を6時間にわたり微量に投与し続けた。すると、薬の濃度が高いほど睡眠時間が短縮。ラットが通常睡眠に入る昼間で、睡眠時間は通常1時間あたり約40分だったのが20〜25分まで減少した。
同研究所の裏出良博・第2研究部長は「PGD2はこれまで強制的に投与して眠気を引き起こすことは知られていたが、今回の実験で、結果的にPGD2が自然な睡眠にも関与していることが分かった」と話している。
2カ国語を話せるバイリンガルの人は、言語を切り替える際に大脳の奥にある尾状核という部分が活発に働き、スイッチになっている可能性があることが京都大と英国、ドイツの研究機関などの国際チームの研究で分かり、9日付の米科学誌サイエンスに発表された。
研究チームの国立精神・神経センター神経研究所の花川隆室長(脳科学)は「多言語を習得するための脳のメカニズムを知る第一歩になる」と話している。
研究チームは、英語とドイツ語を話せる2グループと、日本語と英語を話せる1グループで実験。2つの単語を「違う言語」「違う意味」「似たような意味」などさまざまな組み合わせで見せ、脳のどこが活発に働いたかを調べた。その結果、言語が切り替わった時は、どのグループでも脳の左右にある尾状核のうち、左側が活発に活動していた。
米製薬セルジーン社は25日、米食品医薬品局(FDA)が、同社の内服薬「サリドマイド」を血液のがんの一種である多発性骨髄腫の治療薬として承認したと発表した。
サリドマイドは、1950−60年代に日本など各国で、睡眠薬や胃腸薬として妊婦が服用し、赤ちゃんに深刻な薬害を引き起こした。米国では98年にハンセン病の合併症に対する治療薬として承認され、多発性骨髄腫の治療用としても医療現場での使用が先行していたが、今回、副腎皮質ホルモン「デキサメタゾン」との併用療法が公式に認められた。
インドネシアで家族や親類計8人が鳥インフルエンザ(H5N1型)に感染したとみられ、うち7人が死亡した事例に対し、各国の感染症専門家が懸念を強めている。家族の集団感染としては過去最大規模で、「ヒトからヒト」への感染が複数回起きた可能性が26日までに明らかになったからだ。
世界保健機関(WHO)の調査では、ヒトの世界で大流行が心配されるようなウイルス変異は検出されていない。たまたま条件がそろって家族内で感染が広がった「特異例」との見方がある一方、ウイルスがヒトに定着する兆しである可能性も否定できず、今後の調査に注目が集まっている。
集団感染は北スマトラ州カロ県の農村地帯で起きた。
世界的に流行しているエイズウイルス(HIV)は、アフリカのカメルーン南東部に生息するチンパンジーから人間へ感染した可能性の高いことを、欧米とカメルーンの研究チームが初めて突き止めた。
各地のチンパンジーが保有しているウイルスを比較して分かった。治療薬やワクチン開発につながる成果と期待される。
米科学誌サイエンス電子版に25日、掲載される。
HIVの起源は、チンパンジーに感染するサル免疫不全ウイルス(SIV)といわれていた。研究チームは、カメルーン国内の10か所でチンパンジーのふんを採取。5か所のふんからSIVの遺伝子を検出した。分析の結果、遺伝子の構造(塩基配列)には地域差があり、同国南東部の2か所で検出されたSIVが、世界的に流行しているHIV(Mタイプ)と酷似していた。
将棋やチェスなどで瞬時に数手先まで読むといった「先読み」の能力に、脳の前頭前野が深くかかわっていることが、東北大大学院医学系研究科の虫明(むしあけ)元(はじめ)教授(神経生理学)らのチームの動物実験でわかった。
問題解決の手順を先読みする仕組みが解明されれば、複雑な問題を一瞬で解決する人工知能や、認知症の治療法の開発などに役立つという。
18日付の米科学誌「ニューロン」電子版に掲載される。
虫明教授らは、コンピューターの画面上の迷路を、3回のレバー操作でマークを移動させてゴールさせるようニホンザルを訓練、その際の前頭前野の神経活動を調べた。
紫煙の漂う室内で育った赤ちゃんは、親がアレルギー体質だった場合、1歳までにアレルギー性鼻炎を発症する割合が3倍に増えることが、米シンシナティ大(オハイオ州)の研究で分かった。
同大のG・レマスターズ教授らが、欧州の専門誌「小児アレルギー・免疫学」電子版に17日発表した。
調査の対象としたのは、親がアレルギー体質の乳児633人。喫煙状況も含めて各家庭の室内環境などを調べ、1歳までに現れた呼吸器系症状との関連を分析した。
その結果、室内での1日の喫煙本数が20本以上という家庭の乳児は、家族が全くたばこを吸わない家庭の乳児に比べて鼻炎の発症が倍増、特にアレルギー性鼻炎の発症は3倍に上った。また、かびの繁殖が目立つ家では、かびが全く見られない家に比べ、アレルギー性鼻炎が3倍、鼻や耳の炎症を伴い、抗生物質の投与を受けるほどの風邪にかかる割合は5倍に達した。
星の材料を再現した氷状の混合物に宇宙を飛び交うのと同じ高エネルギーの放射線を当て、アミノ酸のもとになる複雑な有機物を作り出すことに小林憲正・横浜国立大教授(分析化学)らの研究グループが成功した。アミノ酸は生命活動を支えるたんぱく質を構成する物質で、生命の素材が宇宙で作られたとするシナリオを裏付ける成果だ。千葉市で開催中の日本地球惑星科学連合大会で17日に発表する。
研究グループは、宇宙で星が形成される場となる暗黒星雲を構成するメタノール、アンモニア、水の混合物を液体窒素で氷点下約200度に凍らせた。暗黒星雲は同約260度と極低温のため、その状態に近づけた。
放射線医学総合研究所(千葉市)で、この氷状物質に高エネルギーの放射線を照射すると、数時間で有機物が生じた。有機物の分子はアミノ酸の約20倍の重さがあり、水に溶かすと数種類のアミノ酸ができた。この有機物は熱や放射線に強く、アミノ酸が単独で存在するより壊れにくいことも分かった。
地球の生命は約38億年前に海で誕生した。従来は、紫外線や雷などの作用で大気から生じたアミノ酸などが生命の素材になったとされていたが、最近は、原始大気はアミノ酸が生じにくい組成だったとする研究も多い。
研究グループは、宇宙空間で生成された有機物がいん石やすい星に取り込まれて地球に運ばれ、海で進化して生命が誕生したというシナリオを提案している。
実際に、いん石やすい星からは複雑な有機物が見つかっており、小林教授は「宇宙で生成される有機物の具体的なイメージが初めてつかめ、地球外で生命の素材が作られたことを示すことができた」と話している。
体内の水分量維持など、さまざまな働きを持つホルモン「バゾプレッシン」が血圧を維持する仕組みの一部を、京都大薬学研究科の輿水崇鏡講師、辻本豪三教授らのグループが解明し、米科学アカデミー紀要電子版で9日発表した。
バゾプレッシンは脳下垂体から分泌されるホルモンで、腎臓では水を細胞に再吸収させるよう働いている。血管を収縮させる働きもあり、高血圧症や心不全などとも関係していると考えられているが、実態は良く分かっていない。
辻本教授らは、細胞膜でバゾプレッシンと結びついて信号を伝える受容体の一つ「V1a」に着目。V1aが生まれつきないマウスで血圧の変化するか調べたところ、循環血液量が1割程度低下して血圧が低くなっており、バゾプレッシンは血管収縮以外の仕組みで血圧を調整する働きがあることが分かった。このマウスでは副腎皮質ホルモンの分泌が低下しており、血圧が下る原因の一つではないかという。
また、薬剤などで人工的に血圧を下げさせると、それに反応して心拍数が増えるが、V1aのないマウスは通常のマウスに比べ、心拍数の増加が少なく、心拍調節機能にも障害が生じることが分かった。これにより、バゾプレッシンは血圧の維持に深く関与していることが示された。
辻本教授は「バゾプレッシンは心臓機能の低下で血圧が低下した時の治療薬として効果があることを示せた。海外では心不全などの治療薬としても使われ始めているが、副腎への影響など副作用に注意しなければいけないことも分かった」と話している。
生命活動の基本となるDNAからRNAへの遺伝情報の読み取りに関し、理化学研究所などの国際チームは、RNA生成の起点となるDNA上の“スイッチ”が、従来考えられていたよりも5〜10倍も多いことを突き止めた。
28日付の専門誌ネイチャー・ジェネティクス電子版に発表する。
一つの遺伝子に複数のスイッチが存在することになり、たんぱく質の作られ方も様々。これが高等動物の複雑な生命活動の原動力である可能性があるという。
国際チームはヒトとマウスの全遺伝情報を解析、RNA生成を指示するスイッチがどこにあるかを探した。人間では、19万513個を確認。これまで一つの遺伝子には、1個程度のスイッチしかないと考えられていたが、実際は1遺伝子に平均5個以上のスイッチが存在していた。
年齢とともに脳細胞は減るが、頭をよく使うと脳細胞が死なないのはなぜか。このメカニズムを解明することに、東京大の緑川良介特別研究員と広川信隆教授(分子細胞生物学)らが成功した。脳細胞が死ぬのを食い止めたり、神経の再生が可能になるかもしれないという。21日発行の米科学誌「セル」で発表する。
広川教授らは、細胞内で物質を運ぶ役割を担う「KIF4」というたんぱく質に着目し、マウスなどで調べた。あまり使われない神経細胞では、損傷した遺伝子の修復にかかわる酵素「PARP1」と結合し、酵素の活性が失われ細胞死を導くことが分かった。一方、よく使う神経細胞では、細胞の活動によりカルシウムが多く流れ込み、酵素が変形(リン酸化)してKIF4と結合しないため細胞死を免れていた。
広川教授は「神経細胞の生死の鍵はKIF4が握っていることが分かった。細胞内の“運び屋”という本来の役割とは違う機能は驚きだ」と話している。
食欲をコントロールする際に重要な働きをする脳内のたんぱく質を、米コロンビア大糖尿病センターの北村忠弘・助教授、ドミニコ・アッシリ教授(ともに内分泌学)らのチームがラットを使った実験で突き止めた。
人でも同様の仕組みがあるとみられ、糖尿病や肥満などの生活習慣病の治療につながる成果。専門誌「Nature Medicine」電子版に発表した。
脳の視床下部には、食欲を促進する物質(Agrp)と抑制する物質(Pomc)がある。レプチンというホルモンが、Agrpを減らしPomcを増やすことで食欲を抑えることがこれまでに知られているが、北村助教授らは、「Fox01」というたんぱく質に注目。このたんぱく質が働いているときは、レプチンを投与しても食欲は衰えなかった。
一方、ラットに半日間絶食させても、「Fox01」の働きを止めておくと、食事量は増加しなかった。つまり、「Fox01」が食欲促進物質を増やしていることになる。
北村助教授は「Fox01の働きを調節することで食欲をコントロールできる可能性がある。動物で効果が出れば、人の治療への応用を考えていきたい」と話している。
水道管の内側など水が多い場所にくっついて生息する細菌の一種が、市販の「強力」接着剤の2倍以上の接着力を発揮できることを、米インディアナ大などのチームが13日までに実験で確かめた。自然界最強の記録だという。
水に強く、人体への毒性も確認されていないため、接着成分だけを大量生産できれば、外科手術などの用途に理想的。しかし「機械にくっつかせず製造できるかどうかが問題になりそうだ」という。
「カウロバクター・クレセンタス」という細菌で、尾のように伸びた付着器官の先端を使い、水道管内部や川の中の岩など、水が豊富な場所の平面にくっつく。器官先端にある糖の分子に秘密がありそうだが、接着の仕組みは完全には解明されていない。
知能指数(IQ)が非常に高い子供は、高度な精神活動をつかさどる大脳前部など特定の皮質の発達パターンに独特の特徴があると、米国立衛生研究所などのチームが30日付の英科学誌ネイチャーに発表した。
7歳ごろには平均より薄い皮質が急激に厚くなって11、2歳でピークを迎え、その後急激に薄くなる。チームは「賢さには皮質の厚さ自体より、成長期の変化の仕方の方が重要らしい」と分析している。
5歳以上の青少年307人について、磁気共鳴画像装置(MRI)による脳の撮影を、最長19歳まで行った。知能テストを基に(1)IQが特に高い(121−149)(2)高い(109−120)(3)普通(83−108)の3群に分け、年齢に伴う大脳皮質の変化を分析した。
魚の脂肪に多く含まれ、日本でもサプリメント(健康補助食品)として販売されているオメガ3脂肪酸が、心臓病やがんなどの予防に効果的だとする明確な根拠はないとの研究結果を英イーストアングリア大などの研究班がまとめ、24日の英医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(電子版)に発表した。
魚の脂肪は一般的に心臓病予防に効果があるとされ、英政府も国民に摂取を勧めている。しかし、研究班は害の有無についても調べる必要があるとしており「狭心症などの人は、念のため、多量の摂取は控えた方がいい」としている。
気管から入ったナノメートル単位(ナノは10億分の1)の超微粒子が、肝臓や腎臓などに移行することを、国立環境研究所がマウスの実験で確認した。19日に開かれたナノテクノロジーの環境影響に関する作業部会で発表した。ナノテクノロジーで製造されるナノ材料は分解しにくい特性があり、研究グループは「体内にとどまる時間が長いと、影響が懸念される」と指摘する。
研究グループは、ナノ粒子が気管から入ると、肺胞と呼ばれる肺の組織から別の臓器や器官に移行するという結果が海外で報告されているため、測定しやすい金粒子を使って調べた。
粒径20ナノメートルと200ナノメートルの2種類を、高濃度でマウスの気管に注入し、2時間後と24時間後の体内での分布を顕微鏡で調べた。肝臓、腎臓、脾臓の血管部分にあることが分かり、20ナノメートル粒子は心臓でも見つかった。また、肺胞にある異物を取り込んで分解するマクロファージと呼ばれる細胞に、ナノ粒子が取り込まれているのが観察された。20ナノメートル粒子は肺胞壁を通過して血管内に直接移行していることも分かった。
古山昭子主任研究員は「マクロファージがナノ粒子を運んでいるほか、直接血管を通って移行していると考えられる。今後、カーボンナノチューブなどのナノ材料でも実験する必要がある」と話している。
慶応大学など日米欧の研究チームは、人間の8番染色体の遺伝情報(DNA配列)を分析し、性染色体を除く22対の染色体の中で最もチンパンジーとの違いが大きいことを突き止め、19日発表した。
8番染色体には、脳の大きさに関係していると見られる遺伝子が多数あることも確認、人間の進化を探る重要な手がかりになりそうだ。
8番染色体は、人間の全遺伝情報の5%を担い、現時点では、739個の遺伝子が見つかっている。
慶応大によると、8番染色体はチンパンジーと比べて変異が多く、変異の割合が全染色体平均の約2倍に達する領域もあった。
変異が大きい領域には、外敵などが侵入した際に最初に働く自然免疫や、脳が小さくなる「小脳症」の原因となる遺伝子など神経系の遺伝子が多数存在していることもわかった。
研究チームの清水信義・慶応大学医学部教授(分子生物学)は「8番染色体を調べることで、脳や免疫機構の発達などヒトの進化のなぞに迫ることができるかもしれない」と話している。
冷たいジュースやアイスクリームは、よほど甘くしておかないと「甘味」を感じにくい。
このような温度による味覚の違いは、舌や口内の細胞「味細胞」にある特定の蛋白質によって起きることを、九州大大学院歯学研究院の二ノ宮裕三教授(生理学)らの研究チームが動物実験で突き止めた。
だれもが実感していることだが、科学的には未解明だった。成果は英科学誌ネイチャー最新号で発表された。
甘味を感じさせる物質が味細胞の表面にあるセンサーにくっつくと、その情報が伝わって電気的興奮が発生。これが神経を通じて味覚として脳に伝わる。
二ノ宮教授らは、刺激の中継役となる蛋白質の一つ、TRPM5に着目。これが体内で作れないマウスと、通常のマウスの計約20匹に、砂糖や果糖などの甘い物質7種類を、15、25、35度の3段階の温度でそれぞれ与え、神経の電気的な興奮度を測定した。
通常のマウスでは、甘い物質の温度が高いほど、神経が興奮する傾向を示したが、TRPM5が作れないマウスでは、温度による変化があまりなく、TRPM 5の働きで甘味の感じ方が左右されることがわかった。
膵臓癌や肺癌などを引き起こす遺伝子「N−ras」に、がんを悪性化させたり、転移を抑える働きもあることを、京都大の高橋智聡・特任 助教授(分子腫瘍学)と米ハーバード大のマーク・ユーイン博士が発見した。新しいがん治療開発の手がかりとなる可能性がある。19日、米科学誌「ネイチャー・ジェネティクス」で発表される。
N−ras遺伝子は、突然変異が起きたり、「Rb」と呼ばれるがんを抑制する遺伝子がなくなると、さまざまながんを引き起こすことが知られていた。高橋 助教授らは、マウスの体に二つずつあるN−rasとRbの遺伝子を一つ、あるいは二つ欠損させ、体のどの部位にどんながんができるかを調べた。
Rbだけを二つとも欠損したマウスは脳下垂体に悪性のがんができたが、Rbに加えてN−rasもすべて欠損すると、がんは良性腫瘍になった。しかし、同 じマウスで、のどの甲状腺にできたがんの場合は、Rbが二つ、N−rasが一つ欠損すると良性腫瘍ができ、さらにN−rasもすべてなくなると、他の臓器に転移を起こす悪性のがんに変化した。
高橋助教授は「N−rasは従来言われていた単純ながんを促進する遺伝子ではなく、組織によって正反対の働きもすることが分かった。N−rasの機能を 制御すればより効果的ながん治療法を生み出せるだろう」と話している。
神経回路が損傷し、体に触れるだけで強い痛みを感じる慢性疾患「神経因性疼 痛(とうつう)」が、脊髄(せきずい)の細胞から大量放出される特定物質が神 経細胞を刺激するために引き起こされることを、九州大の井上和秀教授らとカナ ダの大学の共同チームがラットを使った実験で突き止めた。15日付の英科学誌 ネイチャーに発表した。
神経因性疼痛は、がんや糖尿病の患者、手術後などに起きるが、発症の詳しい 仕組みは分かっていない。鎮痛剤のモルヒネも効かず、効果的な治療法がないのが現状だ。
井上教授らはこれまでに、神経因性疼痛では、中枢神経で免疫機能を担う細胞 「ミクログリア」が活性化し、その細胞表面で情報伝達にかかわるタンパク質 「P2X4」が異常に増えていることを発見。今回は、P2X4が痛みにどう関与 しているかを調べていた。
手術の後遺症やがんの悪化で、神経が傷つけられたり圧迫されたりして起きる「神経因性疼痛」と呼ばれる痛みは、本来は神経細胞の活動を抑え る物質が、逆に神経を異常に興奮させたために起きていたことを、九州大やカナダ・トロント大などの国際チームが突き止めた。
慢性的な痛みの治療法の解明につながる成果で英科学誌ネイチャー最新号に発表した。
痛みは、皮膚の末梢神経から脊髄を経て、大脳皮質などの神経細胞に伝わり感じる。神経因性疼痛には、脳や脊髄にある「microglia`ミクログリア`」という特殊な細胞が関係していることはわかっているが、痛みが起きる仕組みは謎だった。
九州大の井上和秀・教授(神経薬理学)らは、痛みと同様の刺激を与えたミクログリアをラットの脊髄に注入して反応を調べた。
その結果、通常なら神経細胞の興奮を抑えるGABAという神経伝達物質が、本来と逆の働きをして、神経を興奮しやすい状態にすることがわかった。
ミクログリアから出る脳由来神経栄養因子が関与しているとみられ、この因子を妨げる物質を入れると、GABAが神経を興奮させる働きは抑えられた。
スウェーデンのカロリンスカ研究所は3日、05年のノーベル医学生理学賞を豪州の西オーストラリア大のバリー・マーシャル教授(54)とロビン・ウォーレン名誉教授(68)に授与すると発表した。両氏は82年、細菌の一種のヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)を発見し、ピロリ菌の感染が胃潰瘍(かいよう)や十二指腸潰瘍の原因になることを突き止めた。
授賞式は12月10日、ストックホルムで開かれる。賞金の1000万クローナ(約1億5000万円)は両氏に半分ずつ贈られる。
消化器の潰瘍は、ストレスや生活習慣が原因だと考えられていた。病理医だったウォーレン氏は70年代末、胃の一部の組織を切り取る検査を受けた患者の半数で、胃の下部にらせん状の細菌が集まり、その周辺で胃粘膜が炎症を起こしていることを発見した。
マーシャル氏は82年、この細菌の分離と培養に成功し、ヘリコバクター・ピロリと名づけた。胃や十二指腸に潰瘍を持つ患者のほとんどが持っていることから、ピロリ菌が潰瘍の原因だと提唱した。ピロリ菌の除去で潰瘍が治ることも示した。
胃潰瘍と同様に慢性的な炎症が起きる、潰瘍性大腸炎やクローン病などの研究にも新しい視点を提供することになった。
強い酸性の胃液が出る胃の中に細菌がすめるはずはないとされ、ピロリ菌の存在を否定する専門家も多かった。このため、マーシャル氏は自らピロリ菌を飲み、急性胃炎になることと抗生物質で菌を殺すと胃炎が治ることを示し、自説を証明した。
野菜や果物をたくさん食べても大腸がんの予防にはつながらないことが、厚生労働省研究班の坪野吉孝・東北大教授(疫学)らによる男女約9万人の追跡調査で明らかになった。
日本では近年大腸がんが急増。大腸がん予防には野菜の摂取が重要と言われていたが、この“常識”を覆す内容だ。成果は9日付の英国のがん専門誌に掲載された。
調査は1990年以来、全国の40〜69歳の男女約9万人を対象に食事や喫煙などの生活習慣に関するアンケートを実施し、約10年間追跡した。この間、705人が大腸がんになった。
研究では9万人を野菜や果物の摂取量別にそれぞれ4グループにわけ、大腸がんの発生率と比較した。その結果、野菜でも果物でも、最もよく食べるグループと最も少ないグループとの間で、大腸がんの発生率に差はなかった。大腸がんを結腸がんと直腸がんに分けて調べても差はなかった。
同研究班はこれまで、胃癌については、野菜・果物の予防効果を確認しており、野菜や果物の摂取が奨励すべき生活習慣であることに変わりはないという。
肥満の予防に役立つ蛋白質を、慶応大と山之内製薬の研究グループがマウス実験で突き止めた。この蛋白質は人間にもあり、やせ薬の開発につながると期待される。
この成果は21日付の米科学誌ネイチャー・メディシン(電子版)に発表される。
慶応大医学部の尾池雄一講師らと山之内製薬分子医学研究所は2003年に、肝臓から分泌され、血管や皮膚の再生機能を持つ新しい蛋白質を発見、AGFと名づけた。
その仕組み解明のため、遺伝子操作でAGFを失わせたマウスを作ったところ、普通のマウス(平均30グラム)の2倍近い、約50グラムの肥満マウスになった。基礎代謝が低下し、内臓脂肪や皮下脂肪が多く、糖尿病の症状も現れた。逆に、AGFの量を約2倍に増やしたマウスを遺伝子操作で作り、高カロリーのエサを3か月間食べさせたが、約8グラムしか太らず、糖尿病にもならなかった。同じエサを食べた普通のマウスは、約24グラムも体重が増え、糖尿病を発症した。普通のマウスを1年間太らせた後で、AGFの分泌量を増やしたところ、肥満や糖尿病が改善されることが確認できた。
歯の表面に塗るとエナメル質と一体化し同じ結晶を作る人工エナメルを開発したと、FAP歯科研究所(山岸一枝代表、東京都目黒区)や山梨大工学部の鈴木喬教授らのグループが、24日付の英科学誌ネイチャーに発表した。
初期虫歯で歯の表面が溶けた部分に人工エナメルを塗れば、歯を削ることなく治療できる。虫歯がなくてもエナメル質を強化し、虫歯予防に役立つという。
山岸代表らは、歯の主成分ハイドロキシアパタイト(HA)を構成する水酸基の一部を、フッ素イオンに置き換え、酸性溶液で溶かしてペースト状にした。これを歯の表面に塗ったところ、酸の影響で表面がごくわずかにいったん溶け、そこにペーストのHAが元のエナメル質と同じ配列で新たな結晶を作り一体化したという。
BSE(牛海綿状脳症)を引き起こす異常プリオンは、特定危険部位と呼ばれる脳や脊髄(せきずい)などの組織だけでなく、炎症が起きた時に活動する免疫細胞を通じて肝臓や腎臓、すい臓などにも多く蓄積されることが米エール大などの共同研究でわかった。
炎症を起こしたマウスでの結果だが、家畜の肝臓は食用になるだけに、研究チームは「家畜の感染症や自己免疫疾患などの病歴に注目して検査を行う必要がある」と指摘している。21日付の米科学誌サイエンスに掲載される。
研究チームは自己免疫疾患など5種類の慢性病で腎炎や肝炎、すい炎を引き起こすように遺伝子を改変したマウスの脳や腹部にプリオンを注射し、正常なマウスに注射した場合と比較した。その結果、炎症の有無などで違いはあるものの、腎、肝、すい臓とも、特定危険部位の脾臓(ひぞう)と同程度の濃度のプリオンが集まることが確認された。
牛の場合、特定危険部位以外では、筋肉中の末梢(まっしょう)神経や副腎から微量のプリオンが発見された例がある。
白血病などの血液がんの細胞に特有の遺伝子の修飾異常を目印に、微量の血液でがんの有無を検査する方法を、岡剛史岡山大助手(病理病態学)と大内田守同大助教授(分子遺伝学)らが23日までに開発、血液がん患者を対象に診断に使う臨床試験を始めた。
実用化できれば早期発見や治療効果の判定などに役立つと期待される。
岡助手らは血液がんの一種、悪性リンパ腫の発症のメカニズムを調べる中で、特定の遺伝子の発現が抑えられていることを発見。この遺伝子はDNAの配列の一部にメチル基という分子がくっついて化学修飾され、正常に働かなくなっていた。
この遺伝子修飾を検査に利用しようと、数万個の正常細胞の中にがん細胞が1個あれば分かる感度を備えた検査システムを開発した。
身を利用した後に捨てられていたサケの皮から、化粧品の保湿剤などに使われる利用価値の高いコラーゲンを作り出すことに、北海道大大学院の棟方正信教授らのグループが成功した。
BSE(牛海綿状脳症=狂牛病)や家畜伝染病などが心配されるウシやブタに代わる安定した原料供給源になるうえ、年間約2100トンが捨てられているサケの皮の有効活用にもつながる。15日から同大で開かれる高分子学会で発表される。
コラーゲンは蛋白質の1種で、細胞同士を接着する役割などを果たしている。冷たい水の中にすむ魚類のコラーゲンはセ氏20度ほどで分解、変化してしまうため室温での保存が難しく、化粧品や、生物実験の細胞培養で人肌に温めて使う培地としての利用ができなかった。
棟方教授らは、抽出したコラーゲンに特殊な化学加工を加え、47度でも安定したゼリー状のコラーゲンの塊を作ることに成功した。ブタで作った従来品の5倍の強度があり、実用上の優れた性質が期待できるという。
日本人男性は、やせているほどがんになりやすく、標準かやや太めに比べ、がん発生率は14−29%高いことが、厚生労働省研究班(主任研究者・津金昌一郎国立がんセンター予防研究部長)の大規模疫学調査で分かった。米国のがん専門誌に11日までに発表した。
研究班は、40−60代の男女約9万人を1990年から約10年にわたって追跡し、がんの発生率や死亡率と体格指数(BMI)との関係を調べた。
BMIは、体重(キロ)を身長(メートル)の二乗で割った値。標準は22で、25以上が肥満とされる。BMIが21−20・9の男性ではがんの発生率はほとんど変わらなかったが、やせとされる21未満で増加傾向が顕著だった。23−24・9の人の発生率と比較すると、19−20・9の人は14%、14−18・9の人は29%、それぞれ発生率が高かった。女性では、こうした傾向はみられなかった。
植物はウイルスなど病原体に侵された時、自分の葉などを枯らす「細胞の自殺」によって感染を食い止める自己防御能力があることが知られているが、京都大大学院理学研究科の西村いくこ教授(植物分子細胞生物学)らの研究グループが、細胞死を起こす酵素を世界で初めて特定した。6日発行の米科学誌サイエンスで発表する。
タバコの葉にモザイク状の病変を起こす典型的な病原体「タバコモザイクウイルス」を含む溶剤を葉に塗り、人為的に感染させて実験した。
西村教授らは細胞の中にある器官「液胞」で作られ、蛋白質の分解を促す働きが知られていた酵素「VPE」(91年に同教授らが発見)に注目。遺伝子操作でVPEの働きを通常の1%以下に抑えたタバコの株を作り、通常の株と比べた。その結果、通常株はウイルスを塗った部分の葉が枯れたのに対し、VPE抑制株では枯れないため葉にウイルスが広がってしまい、VPEが細胞死を起こしていることが確かめられた。
西村教授は「世界の研究者が探していた酵素の実体を明らかにできた。病害による農作物の損失は年間15%とも言う。感染時に素早く自ら葉を枯らす株を遺伝子操作で作るなど、農薬に頼らない病害対策につながれば」と話している。
事故などで脊髄(せきずい)を損傷した日本人患者9人が、治療のため中国の病院で中絶胎児から採取した細胞の移植を実際に受け、6人が治療を予約していることが、現地の関係者や患者団体「日本せきずい基金」の調査で21日わかった。
国内では治療の手立てがなく、患者は一縷(いちる)の望みをかけて渡航しているが、有効性や安全性が確立したとの評価はなく、日本人の相次ぐ渡航に懸念の声も出ている。
治療を行っているのは、北京の首都医科大学病院の医師。中絶胎児の鼻の粘膜細胞を採取し、培養後に患者の損傷部付近に注射で移植する。細胞移植によって、切断された脊髄の神経細胞の再生が促されるらしく、これまで動かなかった腕や足に感覚が戻り、自力で動かすことができるようになる、という。
関係者によれば、2001年秋から三百数十人の中国人に移植を実施。風評を聞きつけた米国人や日本人ら計数十人も治療したとされる。今年2月に日本人として初めて細胞移植を受けた愛知県の男性は、約1か月の滞在で2万ドル(約216万円)かかったが、明らかな効果は出ていない。
治療成果について、医師は論文の形ではほとんど報告していない。同基金の照会に対し治療チームは、これまで患者3人が死亡、移植後の数週間―数か月、ほとんどの患者が異常な痛みを感じると回答したが、原因はわかっていない。
神経再生に詳しい日本人研究者は「有効性も安全性も確立されたとはいえない」と指摘する。同基金の大浜真・理事長は「治療の手立てのない脊髄損傷の実情は知ってほしいが、患者団体としては現段階では推奨できない」としている。
薬剤が効きにくい歯周病菌に対し、優れた殺菌効果を示す物質をライオンのオーラルケア研究所が発見した。
虫歯と並び、歯を失う原因の半分を占めるとされる歯周病の予防に生かせると期待される。
歯の表面についたネバネバの「歯垢=しこう」は、食べ物のかすをエサに繁殖した細菌の集団。集団化した細菌は、糖などで防護壁を作り、薬をはね返してしまう。
ライオンは、この防護壁を突破できる物質の探索に乗り出し、ボディーソープなどに使われている化学物質「イソプロピルメチルフェノール」が、突破力も殺菌効果も極めて高いことを発見した。
歯垢の除去は歯磨きが最も効果的だが、完全に磨くのは極めて難しく、40歳代の歯周病の保有率は8割に上るとされる。放置すると歯茎が炎症を起こし、悪化すると周囲の骨まで侵食、歯が抜けてしまう。
同社は今後、この物質を入れた歯磨き剤の開発を進める。
てんかん(癲癇)は細胞死が予定通りに進まないことが原因で発症――。こうした新説を、理化学研究所脳科学総合研究センターの山川和弘チームリーダーらと米カリフォルニア大ロサンゼルス校の共同研究チームが19日、米科学誌ネイチャージェネティクス電子版に発表する。
てんかんは筋肉の収縮と意識障害が発作的に起き、突然転倒するなどして体がけいれんする病気。発作が何度も繰り返して起きるのが特徴で、全人口の1%以上が発症するといわれている。
山川氏らは、てんかん患者のうち7〜9%を占める遺伝性の「若年性ミオクロニーてんかん」について、44家系の遺伝子の特徴を調査。その結果、メキシコ人ら6家系に共通した遺伝子の異常を発見した。
この遺伝子の異常は、不必要になった細胞を自動的に除去する仕組み「アポトーシス」を妨げる働きがある。てんかんは、神経細胞が異常に活発化して発症するとみられていたが、今回の発見により、脳内に不必要な神経細胞が残ることが原因で発症する可能性があることがわかった。
山川氏は「まだ仮説にすぎない。さらに研究を重ねて、てんかん発症の仕組みの解明や治療法の開発に結びつけたい」と話している。
心筋梗塞の発症にガレクチン2というタンパク質を作る遺伝子が関与し、その塩基配列が1つだけ違う人は1.57倍発症しにくくなることを、理化学研究所遺伝子多型研究センターの田中敏博チームリーダーらが突き止めた。6日付の英科学誌ネイチャーに発表した。
塩基配列が1つ違う遺伝子を持つ人は、心筋梗塞患者で約9%、健康な人で約14%。発症原因となる血管の炎症の進行が抑えられるためと、研究チームはみている。
心筋梗塞は、世界でも日本でも死亡原因の上位に入り、高脂血症など生活習慣病と遺伝的要因が重なって発症するとみられる。今回の発見は遺伝子レベルのメカニズム解明に道を開く成果で、田中さんは「遺伝子を調べれば発症の危険性について注意喚起でき、予防に役立つ」と話している。
カナダ通信は3日、カナダ東部のニューブランズウィック州で同日までに、短時間で皮膚や筋肉を壊死(えし)させる「人食いバクテリア」に感染した患者1人が死亡、1人が隔離されたと伝えた。このほか5人が経過観察中だという。
感染経路などは不明だが、感染した2人は同じ病院で治療を受けていた。4月30日に死亡した患者の身元などは明らかにされておらず、治療開始から24時間以内に死亡したという。